前回までに、全粒粉の栄養価や健康効果について紹介しました。全粒粉に含まれる成分の食物繊維、抗酸化物質、ビタミン、ミネラルなどは、各々で疾患リスクの低減に関係します。しかし、特定の成分と健康効果を関連付けることは十分にはできておらず、個々の成分の効果の総和よりも全粒粉の効果の方が大きいと言われています1)。全粒粉の研究が難しい理由は、どちらかと言えばゆっくり現れる効果なので研究期間が長くなってしまうこと、同じ小麦の全粒粉と言っても小麦の種類や生育条件で成分の違いが生じること、正確な摂取量を把握するのが難しいこと、などが挙げられます。
また、穀類の全粒粉に含まれる食物繊維の種類と量は測定方法の違いによって変わります。従来のプロスキー変法では、低分子量水溶性食物繊維や一部の難消化性でん粉は測定できません。図1に従来のプロスキー変法とAOAC.2011.25法の測定可能な範囲のイメージを示しました。水溶性食物繊維や難消化性でん粉も測定できるAOAC.2011.25法が導入されるようになった理由が伺えます。
厚生労働省の国民健康・栄養調査報告2)では、測定方法にAOAC.2011.25法が加わったことで、令和元年から穀類の食物繊維総量は約2倍に増加しています(表1)。穀類に含まれる食物繊維が物理的に増加した訳ではなく、今まで見えていなかった食物繊維がカウントされるようになったということです。
出典:平成30年、令和元年、令和5年の国民健康・栄養調査報告 第9表の2 食品群別栄養素等摂取量-食品群,栄養素別,摂取量-総数,20 歳以上を加工して作成
こうして見ると、穀類は野菜と1番2番を競り合う食物繊維の摂取源であり、私たちは野菜よりも穀類から多くの食物繊維を摂取していることに気づかされます。もう少し詳しく見るために、全粒粉は穀類の粒を粉砕して全部集めたものなので、日本食品標準成分表3)の「こむぎ/国産/普通」を全粒粉と見立てて比較してみたいと思います(表2)。従来のプロスキー変法では、「こむぎ」の食物繊維総量は10.5 g/100 gであり、そのうち不溶性食物繊維が大部分の10.0g/100gで、水溶性食物繊維はわずか0.5g/100gでした。しかし、AOAC.2011.25法で測定すると、水溶性食物繊維は0.5g/100gから5.1g/100gに約10倍大きくなりました。それに伴い、食物繊維総量も10.5g/100gから14.0g/100gに1.3倍大きくなっています。小麦中の見落としていた水溶性食物繊維を見つけ出して、思っていたよりも多いことに気が付けたということです。ただし、食物繊維の目指すべき目標量は従来法の値を元に設定されたものなので、増えた量で不足分を補えるという話ではありません。
水溶性繊維が多く含まれることが分かり、穀類の食物繊維は不溶性食物繊維が便の嵩を増やすことで便通を改善する効果だけではなく、水溶性食物繊維も相応に含まれており野菜と同じように、腸内細菌の栄養となり腸内フローラのバランスを整える役割や腸内でゲル状となって消化が遅らせて血糖値の急上昇を防ぐ効果も持ち合せている可能性を示唆しています。表2に示したように、測定方法の違いで、大きく増えるものそれほど増えないものまちまちですが、穀類の食物繊維も野菜の食物繊維も、共に腸の健康をサポートしており、両者は肩を並べる重要な役割を果たしていることは確かです。また、「食物繊維を手軽にとりたい方へお勧めするのは、主食の穀類からとる方法です。一日のうち1食の主食を玄米ごはん、麦ごはん、胚芽米ごはん、全粒小麦パンなどに置き換えると、効率的に食物繊維が摂取できます。」と厚生労働省のホームページでも穀類、特に全粒粉の摂取を推奨しています4)。
先に述べたように、全粒粉には食物繊維、抗酸化物質、ビタミン、ミネラルなどが多く含まれていますので、日常的に無理なく上手に全粒粉を摂ることで、健康的な食生活を実現しましょう。
出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)増補2023年を加工して作成
参考文献
1. Hager, A., et al. (2020). Formulating breads for specific dietary requirements. In Cauvain, S. (Ed.), Breadmaking: Improving quality, pp. 691-719. Elsevier.
2. 厚生労働省、国民健康・栄養調査報告 平成30年、令和元年、令和5年
3. 日本食品標準成分表2020年版(八訂)増補2023年
4. 厚生労働省、e-ヘルスネット:食物繊維の必要性と健康