時間栄養学
2022.4.25
第3回 朝食の大切さ

監修:愛国学園短期大学講師 古谷彰子先生

朝食と体の関係とは

朝食を食べると、体内時計が調整されて、全身の組織が活性化し、私たちの体温は上昇します。それで体が動き、活動的になれるのです。効果を最大限に発揮するためには、朝食をしっかりとり、体温を上げることが求められます。脳は炭水化物が分解された単糖類の「グルコース」を栄養のひとつとして活動します。ですから朝食、とくに炭水化物を摂取しないと、グルコースが届かず脳は栄養不足となります。

栄養が脳に届くまでには、ある一定の時間が必要です。食物が胃で消化されグルコースとなり、それが腸から血管に吸収されて脳に届くまでには、2時間〜3時間かかります。もし油が多いものをたくさん食べれば、胃での消化に時間がかかり食べ物が胃に残留する時間が長くなりますから、余計に脳に届くまで時間がかかります。この胃に食物がずっと残っている状態がいわゆる「胃もたれ」や「消化不良」です。

このように、朝食でとった炭水化物が、分解されてグルコースとなり、脳の栄養として使われるためには、仕事や授業、試験の最低2時間、できれば3時間前に朝食をとるといいのです。9時から始業であれば、その3時間前、つまり6時ごろに朝食を食べるのがベスト。そうすれば9時には、その日の朝食が脳のエネルギーとして使えるというわけです。脳が働くためには、グルコースという栄養が必要です。

朝食を食べている子供の成績は良い!?

毎日きちんと朝食をとる習慣がある人は、常に脳に栄養がとれた状態で、午前中の活動をしていることになります。一方、朝食をとる習慣がないと、午前中の活動を栄養不足の脳で行わなければなりません。これが毎日のこととなれば、同じ能力をもっていたとしても大きく差が開いてしまうことでしょう。

朝食を食べないことは、学力へも大きな影響を及ぼし、成績が下がることが様々な調査で明らかになってきました。文部科学省の「全国学力・学習状況調査」を基に農林水産省がグラフ化した資料を見ると、「朝食を毎日食べている」という問いに、「全くしていない」という子(朝食を食べない子)は、「している」という子(朝食を食べている子)に比べて、小学生で16ポイント以上、中学生で10ポイント以上、どの教科においても正答率が低い結果になっています。

朝食を食べていない子は、学力の調査と同じように体力・運動能力でも、朝食を「毎日食べる」という子と「食べない」という子で、差が出ています。文部科学省の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」を基に農林水産省がグラフ化した資料を見ると、「食べない」という子は、「毎日食べる」という子に比べて、小学生も中学生も3点以上、体力テストの点数が低くなっています。 規則的な生活ができている子とそうでない子では、成績と同じように、力・運動能力にも、これだけの差が出てしまうのです。




出典:農林水産省「平成30年度 食育白書」(子供の基本的な生活習慣の形成)

もう一つ、記憶力に関しての調査も見ておきましょう。これは大人を対象にしたテストですが、「朝食を食べている(Breakfast)」人と「朝食を食べていない(Fasting)」人の記憶力調査では、いずれも食べている人の方が記憶するのに必要な時間が短く良い成績を残しています。

出典:D. Benton and P. Parker, Breakfast, blood glucose, and cognition.
The American Journal of Clinical Nutrition, 67(4), 772S–778S, 1998 のFig 1.を加工して作成

この「Spatial memory(空間記憶)」というテストは、絵などをぱっと見せて、どこに何があったかを当てるテストです。もう一つの「Word list(単語想起)」というのは、連想ゲームのようなもので、例えば「面白い」という単語から連想される単語を探します。このような瞬時の記憶力や連想力が求められるテストで、朝食を食べている人の方が、回答にかかるまでの時間が短いことがわかります。このことからも、成績や仕事の効率を上げるためにまずできることは、「朝食を食べる」ことだとわかります。また最初にお伝えしたように、朝食の効果は「脳の栄養」だけにとどまりません。「体内時計をリセットする」というもう一つの役割があります。しっかり体内時計をリセットさせてくれる朝食がとれているかどうか、もう一度見直してみるのもよいでしょう。