糖質と健康
2024.5.30
第1回 糖質とは 概念と役割

監修:神奈川県立保健福祉大学地域貢献センターアドバイザー 藤谷朝実先生

概念と役割

糖質とは

「糖質」は、言葉として用いる分野によってその定義が少し異なります(表1)が、おおむね同じものを示しています。日々の食事摂取のための栄養摂取量の基準が記載されている食事摂取基準では、炭水化物*1のうち、ヒトの消化酵素で消化できる易消化性炭水化物を糖質としています。糖質はたんぱく質、脂質とともに、食物に含まれる成分としてエネルギー源となる栄養素に分類され、1gあたり約4kcalのエネルギーを産生します。一方、食品を購入する際の参考となるその食品に含まれる栄養成分記載に関する規定である食品表示基準では「たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除して算出する」とされ、糖質は、炭水化物から食物繊維を除く、差し引き法の計算値で示されます。

*1 炭水化物
日本人の食事摂取基準2020年版では、炭水化物を、炭素原子に対して水分子が結合したCm(H2O)nからなる化合物としている。また、ヒトの消化酵素で消化できる易消化性炭水化物を「糖質」、消化できない難消化性炭水化物を「食物繊維」と呼んでいる。食物繊維は消化液による消化はされないが、腸内細菌によって短鎖脂肪酸などに発酵分解され、短鎖脂肪酸は大腸粘膜組織から吸収され、上皮細胞の増殖や、腸内細菌叢の適正化や腸管エネルギーなどに利用される。

表1 糖質の定義

糖質の定義

出典:食品表示基準(平成二十七年内閣府令第十号)、日本人の食事摂取基準2020年版を加工して作成


糖質と似ている言葉の「糖類」は、食品表示基準では、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトースなどの「単糖類」とショ糖、乳糖、麦芽糖などの「二糖類」を示す言葉として用いられています(表2)。これら糖類の過剰な摂取が肥満や虫歯の原因になることは広く知られています。

一方、糖質はこれら単糖類と二糖類の他に、単糖が3~10程度結びついた少糖類(オリゴ糖)や、単糖が10~数千結びついた多糖類の他、糖のカルボニル基が還元されて生成される糖アルコールがあります。でんぷんはブドウ糖から構成される多糖類で、ヒトの消化酵素で分解されます。同じ多糖類の仲間でヒトの消化酵素では分解されないものを食物繊維として分類しています。

糖質と糖類は混乱しやすいかもしれませんが、少し意味が異なることを認識されるとよいと思います。ちなみに「炭水化物」「糖質」は英語でそれぞれcarbohydrate、「糖類」はsugarと表現されます。

表2 糖質の分類

糖質の分類

*単糖類の構造式はフィッシャー投影式で記載
出典:日本人の食事摂取基準2020年版を加工して作成


生命維持に欠かせない糖質

私たちの生命は、体の外からエネルギーとなる物質(食べ物)を取り入れることで維持されています。生命を維持するために必要なエネルギー量(基礎代謝量)の約50%は脳、腎臓、筋肉で消費されていて、成人では、体重1㎏あたり約12kcal/日、つまり体重60㎏の人であれば、1日で約700kcalがこれらの組織によって利用されているわけです。これらの組織の主なエネルギー源は糖質(グルコース)であり、生命維持に欠かせない脳は1日あたり約120gのグルコースを消費しているとされ、これは肝臓のグルコース貯蔵量に匹敵しています。

食事から摂取した糖質は、消化酵素の作用でグルコースなどの単糖類に分解され、小腸から吸収され門脈から肝臓を経て体内を移動し、エネルギーとして利用されます。全身にエネルギーを供給するために血液中には一定量の糖(グルコース)が含まれていて、これを血糖といい、その濃度を血糖値(mg/dl)で示します。

糖尿病などの糖代謝異常がない健康な方であっても、食後約1時間で血糖値は約120~140mg/dlまで上昇し、食後2時間で食事前の約80~110mg/dlまで戻ります。とりすぎた糖質、つまり食べ過ぎたグルコースは、インスリンによって肝臓や筋肉にグリコーゲンとして蓄えられますが、肝臓や筋肉に貯蔵できるグリコーゲン量は決まっており、それ以上は中性脂肪に変化します。中性脂肪が肝臓に溜まりすぎると脂肪肝の原因となることもありますし、皮下脂肪へと変化すると肥満にもつながります。

食事写真

一方、食事から糖質の供給がなくなり血糖値が下がると脳の機能を維持するために、血糖を上昇させるホルモンによって肝臓に蓄えられているグリコーゲンが分解され、血糖値を維持し、脳をはじめとした重要な臓器の機能を維持しようとします。このように、血糖値は食事中の糖質量だけでなく、ホルモンの作用を大きく受けて常に一定に維持されています。

食事が摂取できない状況が続いて貯蔵しているグリコーゲンもなくなると、生命を維持するために身体の構成成分であるたんぱく質や脂質などを異化*2して、脳や神経系にエネルギー源を供給するためのグルコースをつくり、血糖値を維持しようとします(糖新生)。しかし、こういったたんぱく質や脂質の異化による糖新生は、生命維持のための非常手段であり、糖質によるエネルギー産生に比べて効率が悪い上に、本来身体をつくるために必要なたんぱく質を消費することにつながります。食事から適切な量の糖質を摂取することが生命維持の上でも欠かせません。

*2 異化とは生体内の高分子を分解し、その物質に含まれているエネルギーを取り出すことを意味しており、たんぱく質・多糖類・脂肪の分解の他、解糖や発酵なども含まれる。