東日本の交通拠点として古くから栄えてきた経済都市・郡山市の東部に校舎を構える芳賀小学校は、昭和3年の創立以来、80年以上の歴史と伝統を持つ小学校です。 東日本大震災時には校舎に被害を受けましたが、現在は校舎修復も済み、校内には子ども達の元気な声が響いています。「強く 正しく 朗らかに」を教育目標に掲げ、 自ら学び考える子どもの育成に力を注ぐ他、陸上部や相撲部などの強豪校としても知られています。


当日は、朝からさわやかな秋晴れの空。まぶしい日射しが降り注ぎ、運動するにはピッタリの陽気となりました。 元オリンピック選手がやってくるとあって、広いグラウンドには保護者の方や下級生も大勢集まり、スタート前からにぎやかな雰囲気。緊張でどことなく固い表情の子ども達に「みんな、ほっぺたをグニュグニュとマッサージしてごらん!」と先生がリラックスさせようと声をかけます。 「今日は体育だけでなく、みなさんの考えをしっかり発表してください」と菅野則夫校長先生からお話があった後、いよいよ為末先生の登場です。

ハードルを跳ぶために  -目標設定への道筋-

「今日は天気もいいので、元気よく楽しくやりましょう。じゃあ、みんなでグラウンドを走ろう!」 為末先生のかけ声で、まずは全員一斉にランニングです。
今回は小学5年・6年の約200名が参加する大所帯。最初は緊張気味だった子ども達も、みんなの輪の中に為末先生が入っていくと、早くもハイテンションに。為末先生の楽しい指導に合わせて、 スキップや柔軟体操などでウォーミングアップをしながら、校庭いっぱいに元気な声が響きわたりました。

速く走るにはどんな姿勢で走ればいい?  -目標達成のポイント-

続いて、ハードル走に欠かせないスタートダッシュの練習です。
為末先生が「どうしたら速く走れるようになるか、知っている人!」と質問すると、「腕を振る」「足の回転を速くする」「持久力をつける」など、子ども達から次々に意見が飛び出しました。

「今日はポイントを1つだけ覚えて帰ってください。これだけ覚えれば速く走れます。それは、体をまっすぐにして走ること。 あおむけになって寝転がって、ひざの裏と首の後ろを地面にくっつけてみよう。そして5秒数えたら起きる! ピンと姿勢が伸びているから、そのままの姿勢で前にダッシュしてみよう」

為末先生のかけ声で、子ども達が一斉にダッシュ。まっすぐな姿勢がどんな状態なのか、あおむけになって自分のカラダで確認したせいか、 みんな背筋をピンと伸ばして走るコツがつかめたようです。「目は前を見て!そう!」「カラダをまっすぐ立てて!」と為末先生のかけ声を聞きながら、ダッシュをくり返すうちに子ども達のフォームがどんどんきれいに整っていきました。

自分でハードルの高さを選んで超えていく -目標設定-
いよいよハードル走の時間です。
グラウンドには一番低く設定されたハードル8レーン分を用意。「とにかく思いっきり高くジャンプして跳んでみて!」為末先生の声で、子ども達が次々とハードルを超えていきます。 すると為末先生、おもむろにレーンに入ってハードルの高さを少しずつ調整。「マジ?」「何あれ?」と子ども達の戸惑う声のなか、高さの違う3種類のハードルレーンができあがりました。

「どの高さを跳んでもいいよ。ぶつけても気にしないでいいから、好きなところをどんどん跳んでみて!」と為末先生が声をかけると、子ども達は一斉に列を大移動。 気づくと一番高いハードルの列には誰もいなくなっていました…。子ども達にとっては未知の高さだけに不安が広がりましたが、1人の男子が勇気を出してチャレンジ! 跳べることがわかると、1人また1人と跳んでいきます

「やっぱり高いよ!」「ギャーこわい!」と、あちこちから叫び声が上がり、あまりの高さにハードルの前で足を止めてしまう子もいましたが、「大丈夫! 倒してもかまわないから!」 と為末先生に励まされて、みんな最後まで跳び終えることができました。さらに「犬がおしっこする格好で跳んでみて」と跳び方のアドバイスが入ると、スピードもぐんとアップ。 転んでもハードルを倒しても、やめずに跳び続ける子ども達の姿勢を見て為末先生もうれしそうです。

みんなのチャレンジ精神に応えて「最後は僕が跳ぼうかな」と為末先生がつぶやくと、全員から割れんばかりの拍手が! 子どもの目の前でプロの走りを披露すると、あまりのスピードに 「ウォー!」と大歓声が響き渡りました。さらに子どもから「ターメスエ! アンコール!」と声が上がると、子ども2名をハードルに見立てたパフォーマンスも披露。 子どもの背中を軽々と飛び越えていく為末先生の華麗な走りを見て、その場にいた全員が一つになって盛り上がりました。

まとめ  -目標達成はできたか-

自分で目標を決めて、その目標を自分で超えていく喜びを味わってほしい、という為末先生の願いは子ども達の走りに確実にあらわれていました。
「みんなには内緒にしていましたが、一番高いハードルは中学生が跳ぶ高さだったんです。跳べないかもしれないなと思っていましたが、みんなどんどん跳んでくれて、チャレンジ精神が伝わってきてうれしかったです。
僕から伝えたいのは、ハードルを倒してもいいから走り続けてほしいということ。失敗しても気にしないでください。大切なのは最後まで走ることです。
それを覚えてもらえたらと思います」と為末先生のあいさつで体育の授業は終了しました。