男子400mハードルの日本記録保持者で3度のオリンピック経験もある「侍ハードラー」為末大さんが、全国の小学校で出張授業を行う「爲末大学食育学部」。さわやかな秋空のなか、神戸市東灘区の魚崎小学校を会場に令和元年度最後の授業が行われ、6年生214名の児童が参加しました。



自分へのチャレンジ、体育の時間

古くから酒造りの郷として知られる神戸市魚崎にある魚崎小学校は、明治6年の開校以来146年の歴史を持つ伝統校です。全校児童が1200名を超えるマンモス校で、爲末大学食育学部の授業でも214名の6年生が参加するのは過去最多です。さわやかな秋晴れの下、大勢の児童たちがグラウンドに集まり、にぎやかに授業がスタートしました。

「今日は体育、食育、夢という3つの授業で為末先生に教えてもらいます。瞬間、瞬間を楽しみましょう」という山本直子校長による挨拶のあと、為末先生が「今日は一緒に勉強しましょう。まずはハードルの授業から始めますが、ハードルが好きな人!」と質問すると、ほとんど手が挙がらず「少ないね!今日はハードルを楽しく跳んでもらえたらと思います」と為末先生。


体操で楽しみながらウォーミングアップ

ハードルを跳ぶ前に、まずは恒例のウォーミングアップです。2人1組で向かい合い、ひとりはドラえもん、もうひとりはドラミちゃんになります。「先生がセット!と言ったら、2人で握手する寸前のポーズをしてください。ドラえもんかドラミちゃん、どちらかの名前を呼んだら呼ばれた人が相手の手を握り、呼ばれなかった人は相手から逃げてください。行くよ、セット!」という為末先生の掛け声でゲームスタート!

「ドラミちゃん!」「ドラえもん!」と先生が言うたびに、「いえーい!」「わーっ!」とあちこちで声が上がり、ウォーミングアップから児童たちは元気いっぱいです。続いて同じゲームを偶数・奇数でチャレンジ。「7!」「4+2」「9-3」「7×3」と為末先生から計算問題が出るたびに、「ウオー!」と大歓声です。

最後は、2人1組になって、おんぶされた児童がおんぶしている児童の上半身を一周するゲームです。全身の筋力とバランス感覚を駆使して、地面に足をつけない方法を児童ひとりひとりが考えます。簡単にはできないため毎回盛り上がるゲームですが、「速くできた人!」と為末先生が呼びかけて、手が挙がった2組のコンビでスピード勝負をしてみると、猛スピードでクリアした強者コンビが登場!あまりの速さに児童からも「はやっ!」と驚きの声が上がりました。


転ぶ力を利用する、上手なスタートダッシュのコツ

体がほぐれてきたところで、ハードル走に向けたダッシュの練習です。当日は14レーンのハードルコースが用意されていましたが、強風のため、ハードルがばたばた倒れるアクシデントが発生。「ハードルを反対向きに変えましょう」と為末先生が作業を始めると、児童たちも率先して作業を手伝っているのを見て、先生もうれしそう。

レーンが整ったところで、まずは正しいスタートダッシュについて学びます。「ハードルをうまく跳ぶには、速く走ることが大事です。速く走るには、体を前に倒して、体が転びそうになる力をうまく利用すること。手をつっかえ棒にするイメージで、右足に9割の力が集中するように前かがみになって、転びそうな勢いでダッシュするよ。やってみよう!」

為末先生の声を受けて、児童たちが元気よく走り出しました。「体重をもっと足にかけてみて!」「あと30cm頭を前に出してみて!」為末先生のアドバイスにひとりひとりが応えてチャレンジしていきます。

一通りダッシュをしたところで、ハードルの練習に入ります。グラウンドには14レーンのハードルコースが用意され、少しずつ高さが違っています。児童たちには好きな高さのレーンに並んでもらい、途中で自由にレーンを移動してもOK!というのが為末先生流。 「どこを跳んでもいいよ。何も考えなくていいから、上へ高く跳び上がるようにしてハードルを跳んでみよう!」という為末先生の声で練習がスタートしました。

総勢200名以上の児童が一斉にハードルに取り組むのは、初めてのこと。けれど魚崎小の児童はやる気満々、それぞれに好きな高さのハードルレーンをサッと選んで、間髪入れずに飛び出しました。とにかくみんな、元気いっぱい!いつもは「ハードルが倒れても気にせず走ってね」とくりかえし話す為末先生ですが、魚崎小の児童はハードルが倒れようが、転んでしまおうが平気。ものすごい勢いでグラウンドを駆け抜けていく児童たちの姿を見て、為末先生も思わず「みんなすごいなあ!」とひとこと。

みんなの勢いに合わせて「ハードルを跳ぶときは、犬がおしっこするみたいに足を90度にして跳んでみて」と為末先生がハードルをすばやく跳ぶコツを児童たちに教えます。ますます勢いづく児童たち。運動の得意な男子が集まっていた高いハードルレーンにも少しずつ女子が参加し始め、みんなが自分なりに考えながらハードルレーンを高くしたり低くしたり、移動しながらチャレンジしていました。

最初は元に戻すのが間に合わないほど倒していたハードルも、少しずつ倒れなくなってきました。そこで為末先生はハードル間の距離を短くして、3歩でハードルを跳ぶ練習ができるレーンを増やしました。3歩のレーンはハードルの試合と同じ状態で、テンポよく跳ぶリズムを体で覚えるための練習です。

「ハードル走は1本目のハードルに入る瞬間がすべて。ハードルの上にふすま(壁)があると思って、体ごとぶつかって破るようなイメージで跳んでみよう」という為末先生の言葉に、チャレンジ精神旺盛な魚崎小の6年生に火がつきました。次から次へ、新しいレーンにトライする児童たち。真剣ながら笑顔で楽しそうに跳んでいる児童たちを見て「いける!そう!」と為末先生の指導にも熱が入りました。


オリンピックの高さを体感する

最後はお楽しみのデモンストレーションです。為末先生が「これがオリンピックのときに使うハードルの高さだよ。跳んでみたい人!」と呼びかけ、男子2名がチャレンジ。なんと、軽々と跳び越えていったのを見て、為末先生もびっくり。児童に続いて、為末先生もチャレンジ。颯爽とハードルを跳び越える為末先生の、スピードと無駄のない動きに「ウオーーーーッ!」と大歓声が挙がりました。

「今日はみんなハードルがすごく上手になったと思います。これからもこの調子でハードルの練習を続けてください」と為末先生から挨拶があり、1時間目の授業は終了となりました。


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