最後は、自分たちの「夢」についてみんなで話し合う授業です。児童にはあらかじめ専用シートに将来の夢について書いてきてもらい、シートをもとに夢を実現するまでの物語を考えて「夢の発表シート」にまとめてもらうグループワークです。



話し合いにあたって、為末先生から3つのルールが紹介されました。
「1つめは、他の人がどう思うかは忘れて、今日は自分がどう思っているかを大事にすること。2つめは、みんなと違う夢を考えること。突拍子もないような大きな夢を考えてみてください。3つめは、友だちの夢を広げてほしいということ。これをやるなら、もっとこうすればいいんじゃない?という風に話をしてみてください」


人前で自分の思いを発表する

まずは、みんなが考えてきた夢について発表してもらいました。「発表してくれる人、手を挙げて!」と為末先生が問いかけると、児童たちから次々に手が挙がりました。

「具体的なことはないんですが、誰かの助けになるようなことがしたいです」
「動物園の飼育員や猫カフェの店員とか、動物に関わる仕事がしたいです。理由は動物が好きだし、猫を飼っているので、動物のことをもっと知りたいです」
「私の夢は保育士か幼稚園の先生になりたいです。小さい子どもが好きなのと、幼稚園の先生がいろんなことを教えてくれたので」
「サッカー選手になりたいです。幼稚園からサッカーをやっているからです」
「精神科医になりたいです。最近は鬱の人が多いので、みなさんのために働きたいです」
「猫カフェの店員になることです。猫や動物に囲まれて仕事すると疲れない気がするし、他の人も優しい気持ちになれる気がするからです」
「声優になりたいです。アニメや漫画が好きで、家でアニメの声真似をすると怒られるのですが、それを仕事にできたらいいなと思いました」
「ユーチューバーになって、いろんなことをやりたいです」

発表に対する積極性はもちろん、夢の内容も、なぜそれが夢になったかという理由も具体的に説明できる稲穂小の児童たち。「どんなサッカー選手になりたい?」と聞かれれば「コンサドーレ札幌の進藤選手みたいに、攻める時は攻めて点も取れる選手みたいになりたいです」、「精神科医のことはどこで知ったの?」とたずねれば「『13歳のハローワーク』という本を読んで知りました」と、どの児童も先生の質問に即答していて、為末先生も驚くばかりでした。


夢は職業じゃない。本当の夢とは?

発表が終わると、それぞれの夢についてストーリーを考える話し合いの時間です。グループに分かれて、みんなで話しながらワークシートの空欄を埋めていきます。「自分の夢がどうやったらかなうのか、ストーリーを考えてみてください。もうひとつ、夢がかなった瞬間に誰が喜んでいるのかも考えてみましょう」という為末先生の言葉を合図に、話し合いスタート。

輪になってシートに取り組む児童たちの間を、為末先生やこばた先生、稲穂小学校の先生方が回っていきます。稲穂小のみんなは、話し合いでも積極的。友だちと夢の話をしながら「ユーチューバーって自営業なの?」「科学者ってどんな研究をするの?」とチーム内でいろんな質問が飛び交い始めました。為末先生も、さらに夢を深掘りするために「シェフだったら、どんな料理を作る?消防士だったら、どんな現場で働きたい?ユーチューバーなら視聴者数はどれくらい?」と児童たちに質問していきます。

話し合いの中盤、夢のシートが次第に埋まっていく中で為末先生がメッセージを投げかけました。「大事なのは<夢は職業ではない>ということ。大人が<あなたの夢はなんですか?>と聞く時は、職業を聞くことが多いです。でも本当の夢というのは、たとえば自分が整備士になってこんな車を直したいとか、野球選手でホームランを打って見ている人にこんな気持ちになってほしい、という思いの部分なんです。今日みんなには職業ではなくて、その職業を通じて何をしたいのか、ということを考えてほしい」

為末先生の言葉を受けて、もう一度シートに取り組む児童たち。あちこちで会話が盛り上がり、ついにはお互いに夢のストーリーを発表し合うグループも。熱い話し合いが終わり、みんなが考えた「夢のストーリー」を発表してもらう時間になりました。 「僕の夢は研究者です。宇宙のまだ知られていない星や惑星、地球の秘密などを研究して、世界中の人たちが気持ちよく過ごせるようにしたいです。宇宙に行けるなら、土星の輪っかを見てみたいです」
「僕の夢はカメラマンです。もともとカメラが好きだったのでなりたいと思いました。テレビ局や新聞社などで何年か働いて、フリーになって外国へ行って、世界に名の知れたカメラマンになりたいです。風景写真を撮りたいです」
「声優になるために、朗読の勉強をして、歌も練習して、養成所に入って勉強をして、オーディションを受けて、いつか主役の声ができるようになりたいです。女の子だけじゃなくて男の子の声もやってみたい」
「牛飼いになりたいです。おばあちゃんが牛飼いなので、僕もやってみたいです」
「僕の夢は車屋さんです。家族を乗せて、札幌駅で買い物をしたいです」
「僕の夢はエンジニアです。大学で資格を取ってIT系の会社に入って、人の役に立ちたいです。プログラマーかメディカルエンジニアになりたいです」
「保育士です。保育の学校に行って資格を取って保育士になって、ピアノを生かして小さい子どもたちが歌いやすいように弾いて、一緒に歌いたいです」
「僕はユーチューバーになりたいです。中学校で撮影の勉強などをして、高校でその勉強を活かして番組を作りたいです」
「僕もユーチューバーになりたいです。ユーチューバーの専門学校があると聞いたので、そこで学んで活動したいと思います。料理を作って食べたりする番組などをやりたいです。番組ができたら、みなさんぜひ見てください」

為末先生のメッセージを受けて、児童たちの発表は「なりたい職業」ではなく「どういうことをやりたいか」という夢の内容がたくさん盛り込まれる結果になりました。授業の締めくくりに、為末先生からメッセージが贈られました。

「最後に3つの話をしたいと思います。1つは、夢に向かって今すぐ始めてほしいということ。たとえばユーチューバーは今日から始められるし、英語の勉強を始めることもできる。いつか、ではなくて、今日からできることを始める、できることはどんどんやっちゃえ! と言いたいですね。

2つめは、時代は変わっていくということ。ユーチューバーは僕の子供のころにはいなかった。それと同じことがこれからも起こるわけで、今みんながなりたいと思っている職業が将来は変わっている可能性があります。だから職業ではなくて、月に行ってみたい、こんな車を作ってみたい、そういう思いを大切にしていれば時代が変わっても大丈夫。

3つめは、スポーツで成功するために大事なことだけど、なんとなく夢をイメージするのではなくて、ありありと描くということ。音付き色付きで夢を見ようと僕はよく話すんだけど、たとえば声優でこんなキャラクターをこんな声で出して、それを見た子供たちが翌日学校でこんな話をしている……それぐらいくわしくイメージすると成功率が高いんです。今すぐやること、思いを大事にすること、ありありとイメージすること。みんなにはこれから、この3つを大切にしてほしいと思います」

これで為末大学食育学部の授業はすべて終了となりました。