男子400mハードルの日本記録保持者で3度のオリンピック経験もある「侍ハードラー」為末大さんが、全国の小学校で出張授業を行う「爲末大学食育学部」。揺れ動く社会情勢の最中で成長する児童たちに、自分の力で心身を健やかに保つ術を身につけてほしいと願いを込めて2013年にスタートした講義授業も、今回が21回目の開催となりました。中国地方では2校目、山口県での開催は初となる周南市立櫛浜小学校での授業の様子をご紹介します。



自分へのチャレンジ、体育の時間

周南市の南東に位置する櫛浜小学校は、まもなく創立150年の節目を迎える伝統校。緑あふれる森が校舎を包みこみ、少し歩けば海へ出る、そんな恵まれた自然環境の中で学校生活を送る5年生62名、6年生51名がハードルの授業に参加しました。アスリートによる直接指導は貴重な体験ということもあり、多くの保護者が見守る中、体操着姿の児童たちが元気に校庭へ集まりました。

「今日はハードル、食育、夢の3つのテーマについて取り組んでもらいますが、『夢・学び・心』という櫛浜小学校の目標に通じることが多いと思います。たくさんのことを学んでください」という河村康男校長による挨拶のあと、為末先生が「今日は一緒に勉強しましょう。」と児童たちに挨拶して、1時間目の授業が始まりました。

当初は6年生を対象に行われる予定でしたが、5年生が見学に来ていたのを知った為末先生から「せっかくだから、ぜひ一緒にやりましょう」と声がかかり、急遽5・6年生合同での授業に変更。「ハードルは嫌いだという人、手を挙げて!」と為末先生の質問にたくさんの手が挙がると「みんな正直だね(笑)。今日はハードルが上手になって、少しでもハードルを好きになって帰ってもらいたいと思います」とコメントし、早速ウォーミングアップがスタートしました。


ウォーミングアップで楽しみながら体をほぐそう

まずは2人1組で向かい合い、ひとりはドラえもん、もうひとりはドラミちゃんになります。「先生がセット!と言ったら、2人で握手する寸前のポーズをしてください。そうしたらドラえもんかドラミちゃん、どちらかの名前を呼んだら呼ばれた人が相手の手を握り、呼ばれなかった人は相手の手から逃げてください。じゃあ行くよ、セット!」という為末先生の掛け声でゲームが始まりました。「ドラミちゃん!」「ドラえもん!」と先生が言うたびに、「わーっ!」「やった!」という児童たちの声が校庭に響きました。

次はドラえもん・ドラミちゃんの代わりに偶数・奇数でチャレンジ。「セット…8!」「3+2!」と、数字→足し算・引き算→掛け算とだんだん計算が難しくなっていきます。いかに早く暗算をして、手を動かせるかがポイント。すぐに動けた人、「計算できていたのに!」と悔しそうな人、いろんな表情が入り混じって一気に盛り上がりました。

最後は、足じゃんけん3回勝負です。普通の足じゃんけんに続いて、高くジャンプして空中じゃんけんにチャレンジです。「こうやってやるんだよ!」と手本を見せた為末先生のジャンプの高さにハッとする児童たち。負けじとばかりに、みんな空に向かって元気一杯ジャンプしていました。


速く走るためにいちばん大事なこと

体がほぐれてきたところで、ハードルの練習に入ります。まずはハードルを跳ぶために必要なダッシュの練習。「足が速くなるにはどうすればいいか知っている人?」と為末先生が質問すると「腕をふる」「つまさきで蹴る」「バタバタ走らない」などの意見が児童たちから出ました。

「実はいちばん大事なのは姿勢。体をまっすぐにすることなんです。では、どういう形がまっすぐなのか、やってみましょう」と為末先生の号令で、全員その場であおむけになりました。そして膝の裏、腰の後ろ、首の後ろ、それぞれ地面にぐっと押し付けるようにして10秒キープ。「そのまま立ち上がると、体がまっすぐになっている状態です。もし忘れてしまったら、自分が焼き鳥になったつもりで頭から足まで体に串が1本ささっているところを想像してみてください」と為末先生。

体をまっすぐにする感覚を覚えたところで、スキップしながら前に進むダッシュの練習。慣れたところで、今度は上に向かって高くスキップ。続いて、前に向かって大きく速くスキップ。「前に前に大きく、飛ぶような感覚だよ!」という為末先生の手本を間近に見て、1歩のあまりの大きさにみんなビックリ。

ザワつきながらも、先生を真似てジャンプするようにスキップする児童たち。最後は手を大きく振りながら速くスキップする練習をして、いよいよハードルの練習に取り組みます。


ハードルをクリアして今の自分を超えていく

まずはハードルレーンの中から好きなところを児童たちに選んでもらい、高くジャンプしてハードルを跳ぶ練習です。「上に上に、思いっきり跳んでみよう!ハードルは倒しても、振り返らなくていいからね」と為末先生が児童たちに呼びかけると、それぞれにレーンを選んでチャレンジを始めました。

ハードルに苦手意識の強い児童が多いということでしたが、みんなスタートから積極的に取り組んでいるのを見て「そうそう、それだよ!前だけ向いて!みんなうまいな!」と為末先生の指導にも熱が入ります。さっそくハードル間の距離を変えて、3歩でハードルを跳ぶレーンを2コースセット。

「上に跳べるようになったら、次は踏み切り。ハードルの上に輪っかがあるとこを想像してみてください。その輪っかをくぐるように、しっかり足を踏み切ってハードルを越えてみよう!」と為末先生がやり方のお手本を見せると、「すごーい!」と思わず拍手が。児童たちの素直な反応に「ずっとハードル跳んでいたからね」と為末先生も笑っています。

「1台目のハードルと同じスピードで走ることが大事だよ。1台目を蹴とばすくらいの勢いで跳んでみよう!」「ハードルの上に壁があって、それを蹴破るように跳んでみて!」と跳び方のコツを教えながら、1人ひとりに声をかける為末先生。児童たちも転んでもすぐに起き上がって完走する人、「オリャー!」と雄叫びを上げながら力強く跳ぶ人などパワー全開。「そう、そんな感じ!いいじゃんいいじゃん」と先生も嬉しそうです。


世界最高峰の高さにチャレンジ!

最後はお楽しみのデモンストレーションタイム。ハードルの高さを1mに上げて「これがオリンピックでのハードルの高さだよ。跳んでみたい人!」と先生が問いかけると、5年生と6年生一人ずつ男子が手を挙げて果敢にチャレンジ!最後に為末先生が児童たちの目の前でオリンピックハードルの高さで軽々と走り抜けると「ウオー!!」と大歓声が上がりました。

「今日先生が言った、姿勢をピンとして走ることを覚えておいてください。そうすれば、どんどん足が速くなると思います」と為末先生からの挨拶でハードルの授業は終了となりました。


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