2015年をしめくくる爲末大学食育学部の授業は、創立100周年を迎えた名古屋市立西築地小学校が開催地。 校舎を構える港区は、名古屋港の開校とともに開発されたエリアで、昔からオープンマインドで開拓者精神あふれる人が多いことで知られる街です。 今回はそんな地元・名古屋にある中京大学のパラリンピック陸上選手、佐藤圭太さんをゲストに迎えての開催となりました。 佐藤さんはロンドンパラリンピックで200m、400m、4×100mリレーの3種目に出場し、2016年のリオパラリンピックでメダルを狙うトップアスリート。 現役選手が参加する授業は、爲末大学食育学部としては初めての試みです。


暖かな日が続いていた11月でしたが、当日は急な冷え込みで寒々しい曇り空。それでも5年生、6年生の児童が元気に校庭へ集合。積光校長先生が「今日は3時間かけて、心とカラダが元気になる勉強をします。為末先生と佐藤先生は、私たちには想像もできないほどのすごい努力と経験をされている方々です。今日はいろんなことを教えてもらいましょう。じゃあ、みんなで先生を呼ぼう!」と子どもたちに呼びかけ、「為末先生!佐藤先生!」というみんなのコールを受けて、校舎から為末先生と佐藤さんが登場しました。

1時間目の体育の時間は走り方やハードル走を学びながら、目標を実現する達成感を体験してもらう授業です。校庭に登場した為末先生は、「今日はみんなでかけっことハードルの練習をします。帰るまでにはみんなハードルが上手になると思うので、一緒にがんばりましょう」と挨拶。続いて佐藤選手が「こうやって立っているとわからないと思いますが、僕は右足に義足をはいて走っています」と話すと、為末先生が佐藤選手のジャージの裾をたくし上げ、みんなに義足を披露。義足を初めて見た子どもたちは、興味津々の様子でした。

ハードルを跳ぶために -目標設定への道筋-

まずはウオーミングアップ。先生と一緒に、みんなでランニングです。肌寒い朝の空気を吹き飛ばすように、スタートからみんな元気っぱい。カラダが温まってきたところで、全員で円陣を組んで楽しい体操の時間です。

2人1組になって足じゃんけんをすると、子どもたちは大盛り上がり。続いて為末先生が「誰か手伝ってくれる人!」と募ると、「ハイハイ!」とすぐにあちこちから手が挙がりました。白羽の矢が立った男子児童と為末先生が、みんなの前で大きくジャンプしながら足じゃんけんを披露。すると先生のジャンプの高さに、子どもたちから「オー!」「身体能力高い!」と驚きの声があがりました。

さらに、背中におんぶされた人がおんぶしている人の上半身を落ちずに一周する体操にチャレンジ。「むずい!」「できた!」と叫びながらも、みんな楽しそうです。みんなができるようになったところで、上手にできる自信あり!なペアを為末先生が募ったところ、3組が名乗りをあげました。みんなの前に出て、よーいどん!でスピード勝負。一番速くできたペアを見て、みんなから大きな拍手がわきました。

最後に全員で手を作って輪になります。「僕が前!と言ったら前!と言いながら前にジャンプしてみよう」と為末先生から課題が出されると、みんな元気に大ジャンプ。最初は調子よく跳んでいた子どもたちですが、「右!と言ったら逆の左!と言いながら左に跳ぶよ」「右!と言ったら逆の左!と言いながら右に飛ぶよ!」と課題がどんどん難しくなっていくと、混乱してぶつかってしまう子が続出。子どもたちの笑顔がはじけました。

障害物をどううまく跳び越えたらいい? -目標達成のポイント-

体操が終わったところで、ダッシュの練習です。ダッシュ力を高めていくことは、ハードルという障害物をうまく跳んでいくための大切なポイント。ハードルを跳ぶ前に、しっかりダッシュ力を鍛えてハードル走にのぞみます。

全員が7レーンに分かれて、まずは軽くスキップしながらダッシュ。続いて為末先生が「今度は上に高くスキップしてみよう!」と子どもたちに指示を出します。「マリオみたいに?」とひとりの児童が先生に声をかけると、先生は「そう。マリオよく知っているね!」と、ちょっと嬉しそう。最後に「前にビュンビュン速く進みながらスキップしてみよう!」と先生から指示が出され、みんな積極的にチャレンジしていきました。

自分でハードルの高さを選んで超えていく -目標設定-

いよいよハードル走の練習です。校庭には小学生用の高さから中学レベルの高さまで、高さの違う3段階のハードルが並べられました。これまでクラスごとに取り組んでいた子どもたちですが、「これからはシャッフル! 好きなところに並んでいいよ!」と為末先生は児童自ら高さを選ぶように促し、「何も考えなくていいから、とにかく上にジャンプしてみよう!」と自由にハードルを跳ばせます。

すると、スイスイ跳んでいく児童がいれば、「ムリ!」「倒れちゃう!」と叫びながらとまどう児童など、さまざまな反応が出てきました。そんな子どもたちに為末先生と佐藤選手が「大丈夫!」「いいぞ、それいけ!」と励ましの声をかけます。

しばらくすると、低いハードルレーンに児童が集まる一方で、一番高いハードルに果敢にチャレンジする強者が続出! 難なくクリアしていく児童はもちろん、ハードルを倒してもひるまず走りきる児童、戻って失敗したハードルを飛びなおす児童など、西築地小の子どもたちはとにかくチャレンジ精神旺盛です。子どもたちを見て為末先生も「もうこの高さを跳べるの? すごいな」と驚くばかりでしたが、そんなクラスメイトのがんばりに刺激されたのか、今度は一番高いハードルが大人気になりました。

途中で為末先生が低いハードルの高さを少しずつ上げていきましたが、レーンを変わる児童はほとんどいません。みんな、目の前のハードルに向かって果敢に挑んでいきます。そんな子どもたちの姿に「すごいな。みんな、ハードル競技をやったほうがいいよ!」と為末先生も感動しきりでした。

最後は、お楽しみのデモンストレーションタイム。まずは、佐藤選手の番です。為末先生が義足について説明して、「佐藤選手はこういう義足をつけて走っています。そんな佐藤選手にチャレンジしたい人!」と言うと、ハイハイ!と手が上がりました。「じゃあ一番笑顔の人にしようかな」と先生の指名で3名の児童が選ばれ、佐藤選手とかけっこ勝負です。トップ選手との競争だけに「ハンデはいりますか?」と先生が聞くと、全員が「ノー!」と頼もしい返事。ハンデなしのガチンコレースがスタートです。

すると、本気で走る3人をぶっちぎりで抜いて、佐藤選手が堂々の走りを見せてゴール! 次元の違う速さに「速い!」「これはムリでしょ!」と子どもたちはビックリした様子。続いて為末先生はハードルを1つ取り出して「みんなには黙っていたけど、今日一番高いハードルは中学生と同じ高さでした。そしてこれが、先生が跳んでいたハードルの高さです。91cmあります」とプロ競技用の高さにハードルを設定しました。

ここで為末先生、「このハードルの中に入りたい人!」と無茶ぶり!? でも西築地小の児童も負けていません。次々にハイハイと志願者が現れました。その中から女子児童ひとりが指名され、ハードルの中にしゃがんでいるよう先生から指示されました。「95%の確率で大丈夫だと思うけど、何かあったらごめんね」と茶目っ気たっぷりに謝る為末先生を、児童も先生方もドキドキしながら見つめています。そして、為末先生がハイスピードでハードルぎりぎりの高さを華麗に跳んでいくと、グラウンド中に響き渡るような大歓声! 見たこともないハードル走の速さと美しさに「すげえ!」と大声で叫ぶ子どもたちが続出しました。

まとめ  -目標達成はできたか-

西築地小の児童は、とにかくチャレンジ精神旺盛なのが印象的。はじめに自分自身でハードルの高さをきちんと選び、跳んでみてからもっと低いハードルに移動したり、高いハードルに挑んだりと、自分なりの考えで行動している子がほとんどでした。また、一番高いハードルに挑戦する子どもたちも多く、ハードルが倒れたり、転んだりしても途中であきらめる子はいません。むしろ失敗した場所に立ち戻って、もう一度チャレンジするなど、障害物に対する戸惑いのなさに為末先生も感動しきりの様子でした。

「これでハードルの授業は終わりです。次は夢の授業でゆっくり話をしましょう」という為末先生の言葉で、1時間目は終了。みんなで記念写真を撮って、グラウンドを後にしました。