最後は、5年生、6年生と保護者の方々を対象にした食育の時間です。 講師はJリーグの清水エスパルスをはじめ、世界の最前線で活躍するトップアスリートを栄養面でサポートしているスポーツ栄養士の第一人者、こばたてるみさん。為末先生と対談形式での講義は、朝食にまつわるお話からスタートしました。



毎日朝ごはんを食べる人は成績がいいってホント?

「為末さん、今日は朝ごはんを食べてこられましたか?」とこばたさんが質問すると、「今朝は卵焼き、レンコンとゴボウのきんぴら、あと干物を食べました」と為末先生。 「私もホテルでいただきましたが、さすが和歌山だなと思ったのは、みかんがあったことですね。みんなは今日みかん食べてきた?」とこばたさんが子ども達にたずねると、手を挙げた人がちらほら。 「みかんはビタミンCが豊富で、果物の中でも特に糖質がたっぷり含まれているので、スポーツ選手にはとてもいい食べ物なんですよ」と、みかんの栄養価について紹介。為末先生も「和歌山の人なら1日2個は食べないとね」とひとこと。


ここでJリーグのサッカー選手が実際に食べている1日3食の食事が写真で披露されました。量の多さはもちろん、ごはん、肉・魚、野菜、くだもの、牛乳など、さまざまな食材をバランスよく食べているのがわかります。 為末先生も「現役時代は僕も量や食材を考えながら、しっかり食べていましたね」とコメント。世界の第一線で勝負するために、多くのアスリートたちが食事をとても重視していると、こばたさんはいいます。 「では、みんなに聞いてみましょう。今日、朝ごはんを食べてきた人!」
ほとんどの子どもから手が挙がり、こばたさんも為末先生も嬉しそう。「毎日必ず朝ごはんを食べている人は、食べていない人よりも全教科で成績がいいことがわかっています。また体力測定のシャトルランでも、 朝食を食べている人のほうが成績がいいという結果が出ました。朝食は頭のためにも体のためにも、すごく大事なんですね」とこばたさん。

朝食には体温を上げる、頭に栄養を補給する、体調を整えるという3つの働きがあるといいます。「ウィンナーや焼き魚、卵料理など、タンパク質がたくさん入った食べ物は体を温めてくれます。 頭と体の栄養補給には、ごはん、パン、パスタ、シリアルなどの炭水化物。それから…今朝ウンチ出た人!」と、こばたさんがみんなに質問すると、堂々と手を挙げる子が! 「どんなウンチだった?」と再び聞かれると、 一人の子どもが「りっぱなウンチ!」と叫んで会場爆笑。

「バナナ状のウンチが出ると、今日はお腹の調子がいいなと思ってください。野菜はお腹を掃除して、りっぱなウンチにしてくれるので、しっかり摂りましょう」とこばたさん。また、夜ふかしをする子は朝食を食べないことが多いという調査結果も紹介されました。

手軽にたっぷり栄養が摂れるメニューとは?

では具体的にどんな食事を摂ればいいのか、実践方法を考えます。 食事を考える時の基本になるのは「3食×3色」だと、こばたさんはいいます。エネルギー源となるパン、ごはん、パスタなどの炭水化物は「主食(黄)」。筋肉や血液を作ってくれる肉や魚、 卵などのタンパク質は「主菜(赤)」、お腹の調子を整える野菜は「副菜(緑)」。「この黄×赤×緑の3色をバランスよく組み合わせることを考えましょう。運動している人は、さらにフルーツ(青)×乳製品(紫)を加えて5色をそろえるといいですね」

とはいえ、毎食3色・5色の料理をそろえるのは大変です。そこで、こばたさんがおすすめするのが「ミックス料理」。たとえば、主菜の肉と副菜の野菜が摂れる酢豚や、主菜の肉、副菜の野菜、 乳製品の紫が入ったシチューなど、1品で2種類以上の栄養が摂れる料理を取り入れればバランスよく食べられるといいます。「主食、主菜、副菜がそろったカレーライスに野菜サラダ、みかん、牛乳をつけたら5色そろってカンペキですね」とこばたさん。

また、子ども達に「苦手な食べ物は?」と聞くと、梅干し、なめこ、ブロッコリー、チーズといった意見が聞かれました。為末先生も小学校まではピーマンや大根などが苦手だったそうですが、 「オリンピック選手は好き嫌いなく何でも食べると聞いて、それからは嫌いなものも食べるようになった」と、オリンピックをめざして苦手を克服したエピソードを披露しました。

ここで、子ども達が大好きな食べ物として、この言葉が紹介されました。 「おかあさんやすめ ははきとく」 ちょっとドキッとする言葉ですが、オムライス、カレーライス、アイスクリーム、サンドイッチ、やきそば、スパゲティ、目玉焼き、ハンバーグ、ハムエッグ、ギョーザ、トースト、クリームシチューの頭文字を集めたもの。 「気になるポイントは和食が入っていないこと、そして、やわらかいものが多いことです。実は噛むことは脳や体にたくさん刺激を与えるので、とっても大切。噛む力が強いと、いざという時に全力投球できるので、特にアスリートにとっては必須条件です」とこばたさん。

「たとえばカレーライスにつける野菜サラダを野菜スティックにしたり、シチューにつけるパンをロールパンからフランスパンに変えたり、パスタにブロッコリーなどの噛みごたえのある野菜を加えるといいでしょう」と、噛む力を育てるメニューのコツが紹介されました。

本番に強くなる!食事のタイミング

食材の組み合わせ方だけでなく、試合や試験など、ここぞ!という時に最大限の力を発揮するには、食事のタイミングも大切だとこばたさんはいいます。 為末先生に大事な試合の前後にどんな食事を摂っていたか聞いてみると、「たとえば朝10時から試合がある場合、5時に起きて6時にごはんを食べ、試合の1時間前くらいにバナナを食べていた」そうです。


夕方に部活や塾に行く人が多い小学5年生、6年生の場合、夕食が夜8時〜9時と遅い時間になりがちです。すると昼食から時間が空きすぎるために集中力が下がってしまい、 せっかく勉強しても記憶できないということになってしまいます。また、試合前によくカツ丼や唐揚げなどのがっつりメニューを食べますが、ごはん100gを胃の中で消化するのに2時間かかるのに対して、 バター50gは12時間もかかってしまうとか。試合前に油ものを食べるのは、実は逆効果なんですね。

「試合や試験の3〜4時間前にはごはんやパンなどの炭水化物を摂って、脳と体に栄養を補給。生ものや油ものは控えましょう。小腹が空いたら、試合1時間前にフルーツやエネルギーゼリーなど吸収が早いものを。 試合後は肉や卵など、傷ついた筋肉を修復するタンパク質が大切です。カンタンな覚え方として『運動前はあんまん・運動後は肉まん』と覚えましょう。おにぎりなら運動前は焼きおにぎりや野沢菜、 運動後なら牛すきや鶏マヨ、という風に選ぶのがおすすめ。これからもいろいろな栄養を上手に取り入れながら、たくさん食べてくださいね」と、こばたさんからアドバイスが贈られました。

最後に、藤井校長から挨拶がありました。 「為末先生のブログに『夢を見ているその瞬間、人は確かに輝いている。僕は、夢は今を輝かせるためにあると思う。競技人生の前半、努力は夢を叶える為にあると思ってきたけれど、 30歳を過ぎたいつの頃からか、努力する為に夢を見ていると思うようになった。』という言葉がありました。これは、これからの教育の新しい指針になるのではないかという気がしています。 本日は貴重なお話をありがとうございました」

為末先生からも、まとめの言葉が贈られました。 「今日のハードル、夢の授業、食育の授業で教わったことを活かしていけば、丈夫で元気な大人になれると思います。また、夢の授業で夢について書いてもらったけれど、その夢がかなわないこともあります。 その時に、なぜ自分はその夢をかなえたかったんだろう?と考えていくと、違う方向から夢をかなえる道が見えてくると思います。夢をかなえることで自分が何をしたいのか、ということをこれからも考え続けてください。 今日は1日ありがとうございました」 これで爲末大学食育学部の授業はすべて終了となりました。


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