男子400mハードル日本記録保持者で3度のオリンピック出場経験を持つ「侍ハードラー」為末大さんが、全国の小学校で体・食・心について授業を行う「爲末大学食育学部」。2017年度最後の授業は茨城県龍ケ崎市の2つの小学校合同で行われ、6年生98名が受講しました。


関東圏でも気温差が激しいことで知られる龍ケ崎。当日も冷え込みが厳しい朝でしたが、冬らしい快晴のもと、児童たちが元気にグラウンドへ集合しました。今回は会場となる長山小学校に加えて、近隣校の松葉小学校との合同開催という、爲末大学食育学部では初の試み。一緒に授業を受けることで、学校同士、児童同士の連携を深めようというねらいも込められています。
「今日は元プロ陸上選手である為末先生に、午前中いっぱいの時間を使ってみなさんに教えていただきます。どうかたくさんのことを学んでください」という長山小学校 仁平伸一校長のお話を合図に、授業がスタートしました。

1時間目の体育の時間は走り方やハードル走を学びながら、目標を実現する達成感を体験してもらう授業です。児童それぞれが自分で目標を定め、ハードルを上手に跳べるようにトレーニングを行います。
「今日はみんなと一緒にハードルと食育、それから夢の授業をします。今朝は寒いので、さっそく始めましょう。じゃあみんな、2人組になって!」という為末先生の号令で、さっそく授業スタート。爲末大学食育学部恒例の楽しいウォーミングアップの時間です。


ハードルを跳ぶために-目標設定への道筋-

まずは2人1組で向かい合い、お互いに右手を出して握手する寸前の形になります。ひとりはドラえもん、もうひとりはドラミちゃんで、為末先生がどちらかの名前を呼んだら呼ばれたひとが相手の手を握り、呼ばれなかったほうは相手の手から逃げる、というゲーム感覚の体操です。「さあいくよ。セット。…ドラミちゃん!」「セット。…ドラえもん!」と為末先生が呼ぶたびに、児童たちからは「やった!」「勝った!」と大きな歓声が上がります。ルールに慣れたところで、今度は計算式の答えが偶数と奇数バージョンにチャレンジ。「8-3!」「4×3!」と計算がどんどん難しくなり、計算している間に手を握られてしまう子がいれば、即座に暗算して勝利する子もいて、会場はさらに盛り上がっていきました。

最後は2人1組でひとりが相手の背中におんぶされ、おんぶされている人が落ちないようにしながら相手の上半身をぐるりと1周するゲーム。全身の筋力とバランス能力が問われる難易度の高いゲームだけに、児童たちも必死。なんとか落ちないようにと、相手の体にしがみつきます。体があたたまったところで、最後は足じゃんけんでガチンコ勝負!2校が集まっただけに最初は緊張気味だった児童たちですが、このころにはすっかりほぐれたようす。寒風の中、児童たちの元気な声が響き渡りました。


障害物をどううまく跳び越えたらいい?-目標達成のポイント-

つづいてハードルの練習に移ります。ハードルを跳ぶ前に、為末先生が児童たちに質問。
「速く走るために一番大切なことってなんでしょう?それは、まっすぐな姿勢で走ること。頭をしっかりカラダの上に乗せて、肩から足まで一直線になることが大切です。一度練習してみましょう」

足を90度に開き、目線は遠くを見ながらしゃがみます。頭のてっぺんを引っ張り上げる気持ちで立ち上がると、体がまっすぐな状態になることが為末先生から説明された後、そのままの姿勢でスタートダッシュのレッスン。スキップしながら走る、高く跳び上がりながら進む、といったトレーニングを行うことで児童たちは「速く走るためのポイント」を体で覚えていきました。


自分でハードルの高さを選んで、超えていく-目標設定-

ダッシュの練習が終わったら、いよいよハードル走に取り組みます。「スタート地点へ移動するよー」と為末先生が促すと、「スキップで?」という児童の声に「普通でいいよ(笑)」と先生。人なつっこい児童たち、先生ともすっかり仲良しモードです。

グラウンドには高さの異なる7レーンが用意されました。「今日は何も考えないで、自由に跳んでみよう。ハードルは倒してもいいからね!」と為末先生が児童たちに呼びかけると、それぞれが自分の好きな高さのレーンを選んでチャレンジスタート。「あたってもいいから、気にしないでどんどん行け行け!」という先生の声に後押しされて、長山小、松葉小の児童たちは戸惑うことなくハードルへ向かっていきます。特に高いハードルにチャレンジする児童が多く、失敗してハードルを倒しても、足をひっかけて転んでも、元気いっぱいでゴールまで走り抜けていきました。

ハードルに慣れてきたところで、今度は為末先生から跳ぶ時の姿勢についてアドバイス。
「みんな、犬のおしっこ知ってる?跳ぶほうの足が前に出た時、反対の足を真横に上げて90度に曲げると、犬がおしっこする格好になるね。その姿勢を意識しながらハードルを跳んでみよう!」

しばらくすると、明らかに跳び方が変わってきた児童がちらほら出てきました。スピードも上がってきたのを見て、為末先生も思わず「あそこのレーン、すごいね。すごくいいね!」と驚きの声。ぐんぐん上達していく児童たちを見て、「ふすまって知ってる?紙でできた壁がハードルの上にあるんだと頭の中でイメージして、それを足で蹴破るところを想像しながらハードルを跳んでみよう!」と先生からさらなる指導が入りました。

ラストは、お楽しみのデモンストレーションタイム。全員の目の前に、オリンピック100m競技の高さにセットされたハードルが登場。「跳んでみたい人!」と為末先生が呼びかけると、元気よく手を挙げる児童が登場!果敢にチャレンジした結果、見事にクリアして会場は一気に湧き上がりました。児童に負けじと為末先生もデモンストレーション。みんなの前を颯爽と走り抜けていった先生の姿に「おー!」とどよめきが起きました。



まとめ-目標達成はできたか-

児童が自分自身でハードルの高さを選び、跳び方を学ぶことで目標をクリアする達成感を味わうハードルの授業。「今日覚えた、体をまっすぐにする方法はすべてのスポーツで使えるので、これからも心がけて運動してみてください。」と為末先生からコメントがあり、1時間目は終了となりました。