男子400mハードルの日本記録保持者である為末大さんが、全国の小学校で出張授業を行う爲末大学食育学部。第16回となる今回は、南国土佐の太陽が輝く高知県香南市立夜須小学校で開校されました。高知県東部に位置する香南市夜須町は、太平洋に面した温暖な気候を生かし、フルーツトマトをはじめとする野菜やフルーツの産地として知られています。そのような地にある夜須小学校は、開校130年以上の歴史を持つ伝統校です。


前日の厳しい冷え込みから一転、当日は朝から気持ちいい快晴が広がりました。授業に参加する5年生、6年生の児童たちは、授業が始まる前からグラウンドに集まり、みんなで走り回ったりバスケットボールを楽しんだりと元気いっぱい。「世界大会で2つのメダルを獲り、オリンピックにも3大会出場されているすごい先生が、みなさんのために夜須小へ来てくださいました。貴重な機会ですが、ふだんどおり集中していきましょう!」と平石誠校長の挨拶の後、いよいよ授業がスタートしました。

1時間目の体育の時間はハードル走を学びながら、目標を実現する達成感を体験してもらう授業です。「今日はみんなと一緒にハードルと食育、それから夢の授業をします。まずはハードルの授業でみんなにハードルを跳んでもらいますが、好きな高さを選んで自由に跳んでみてみましょう」と為末先生。5年生にとってはこの日が初めてのハードル体験となるだけに、ちょっとドキドキ?そんな児童がリラックスできるように、まずは恒例の楽しい体操から始まりました。


ハードルを跳ぶために  -目標設定への道筋-

ウォーミングアップは、2人1組で行うゲーム感覚の体操です。向かい合った2人のうちひとりは「ドラえもん」、もうひとりは「ドラミちゃん」。握手する手前の形でスタンバイし、為末先生が呼んだほうが相手の手を握り、呼ばれなかったほうは逃げる。成功したほうが勝ち、というシンプルなルールです。

「さあいくよ。セット!」「ドラミちゃん!」「ドラえもん!」と為末先生が呼ぶたびに、児童たちからはキャー!と歓声が上がります。 慣れたところでパワーアップして、偶数・奇数バージョンにチャレンジ。単純な数字から始まり、徐々に足し算、かけ算と計算式が難しくなっていきます。頭で計算しながら瞬時に体を動かす必要があるため、苦戦する児童がいれば「算数なら勝てる!」と得意そうな児童もいましたが、とにかくみんな夢中になって取り組みます。

続いて2人1組でひとりが相手の背中におんぶされ、おんぶしている人から落ちないように上半身をぐるりと一周するゲーム。全身の筋力とバランス能力が問われる難易度の高いゲームで、一発でできた子、途中で落ちた子、落ちないよう必死にふんばる子などさまざまでした。最後に代表3組のコンビがみんなの前に出て、どのコンビが一番早くできるか勝負!「がんばれー!」「落ちるー!」と児童たちから大きな声援が飛び交いました。


障害物をどううまく跳び越えたらいい? -目標達成のポイント-

次にハードルをうまく跳ぶために必要なダッシュの練習です。為末先生が「速く走るにはどうしたらいいですか? 知っている人!」と児童たちに問いかけると「腕をふる」「背筋を伸ばす」「足を上げる」などの意見が出ました。

「うん、正解がありましたね。速く走るために一番大切なことは何かというと、姿勢をよくすること。人間の頭はとても重くて、3〜4kgもあるんです。2リットルのペットボトル2本が体の上に乗っかっていると考えてみてください。そうなると、重たい頭はどうしても前に傾いてしまうんだね。だから走る時は、自分の頭をまっすぐ体の上に乗せることが大事なんです」

そういって為末先生は、姿勢をよくする方法を説明しました。まず足を90度(両手のこぶしが入るくらい)に開きながらしゃがみ、頭のてっぺんを引っ張り上げるような気持ちで立ち上がると、体がまっすぐな状態。そのままの姿勢をキープしてスタートダッシュを練習します。軽いスキップから始まり、スタート地点で5回跳んでから前にスキップ、速いスピードで前にスキップ、とさまざまなパターンにチャレンジしました。


自分でハードルの高さを選んで、超えていく -目標設定-

いよいよハードル走の時間です。為末先生は3段階の高さに設定されたハードルレーンの中から、自分で好きなレーンを選ぶよう呼びかけました。「高く跳ぶためにはどうすればいい?人間が高く跳ぶためには準備が必要なんだね。だから地面をしっかり踏みこんでから、高く跳び上がってみよう。ハードルはどんどん倒していいから、じゃんじゃん跳んでみて!」と為末先生の声を受けて、それぞれが選んだレーンで走り始めました。

朝から元気よく動いていた夜須小の児童だけあって、躊躇することなくハードルを跳んでいきます。ハードルデビューの5年生も、ぴょんぴょん上手に跳んで難なくクリアしていきました。みんなの滑らかな動きを見て「最初から低く飛ばないように、もっと高く高く跳んでみよう! 低い跳び方に慣れちゃうと、ハードルがうまくならないからね」と為末先生も指導に熱が入ります。

全員がハードルに親しんだところで、今度は為末先生からみんなに質問。「ハードルを跳ぶ時に片足は前にいくでしょう。そしたら反対の足はどういう状態になっているかな?」

誰も答えられずにいると「じゃあ、犬がおしっこするところをやってみて!」と為末先生に促されて男子児童がデモンストレーション。「そう、反対の足は90度に曲がっているでしょ?ハードルを跳ぶ時も同じように、後ろの足は90度。ハードルをうまく跳ぼうとすると、体は自然と前に倒れるから、反対の足は犬のおしっこをイメージしてみよう。前足はふすまをけ破る感じを想像してみるといいよ!」

為末先生のわかりやすい解説に、児童たちも真剣にハードルを飛び続けていきます。さらに高さだけでなく、ハードル間の感覚を狭めて3歩で跳べるように設定されたハードルレーンも登場。歩幅を考えながら跳ぶ難しいレーンでしたが、「勢いをつけて跳んで!そういける!3歩で行け!」と為末先生の声援を受けて、果敢にチャレンジした児童が次々と成功させていきました。

「ハードルの試合では3歩で跳ぶので、この感覚を覚えていてください。ちなみに、これが先生やオリンピック選手が跳ぶハードルの高さです」と 為末先生が実際のハードル競技の高さに合わせたハードルを見せると、あまりの高さに子どもたちから驚きの声が上がりました。そして、そんな高いハードルを為末先生が軽々と飛び越えていくのを目の当たりにすると、子どもたちや先生たちから「おーー!」と歓声が上がりました。


まとめ  -目標達成はできたか-

児童が自分で目標(ハードルの高さ)を決め、それをクリアする達成感を味わうハードルの授業。「ハードルは川で葉っぱが岩をスルッとすり抜けていくようなイメージで跳ぶんですよね。みんなも最初と最後をくらべるとハードルの跳び方がものすごく上手になったと思います」と為末先生がコメントして、1時間目の授業は終了となりました。