4年目を迎えた爲末大学食育学部、最初の授業は島根県松江市にある川津小学校が舞台です。宍道湖岸に広がる松江市は古くから水の都として栄え、湖に沈む夕焼けや国宝松江城などの情緒あふれる美景や、マツバガニにノドグロ、シジミといった豊富な魚介類を楽しめる山陰屈指の人気観光地。そんな松江市の北東エリアにある川津小学校では、小学6年生の児童94名が授業に参加しました。中国地方で初の開催ということで、当日は多くのメディアや保護者も集まり、活気あふれる1日となりました。


当日の天気はくもり。校内には前夜に降った雨の影響が残っていましたが、授業は予定通りに校庭で行われました。冷えた朝の空気の中、子どもたちは「寒いー!」と口々に叫びながらも元気よく校舎から登場。 追いかけるように為末先生が校庭に現れると校内のあちこちから「為末さーん!」とかけ声が飛び交うなど、みんな元気いっぱいです。「リオオリンピックでは400mリレーで日本が銀メダルを獲りましたが、 為末先生は日本人で初めて、世界の舞台で400mハードルのメダルを獲ったすばらしい先生です。今日はみなさんのこれからの人生にとって貴重な経験になると思います。 1つでも多くのことを学んでください」と福島稔夫教頭が挨拶し、1時間目の授業がスタートしました。

1時間目の体育の時間は走り方やハードル走を学びながら、目標を実現する達成感を体験してもらう授業です。「今日はみんなと一緒にハードルと夢の授業をします。 まずはハードルの練習をしていきますが、授業が終わるころにはみんなの中で2人ぐらいは一番高いハードルを跳べると思います。誰が跳べるのか、楽しみにしています。まずはウォーミングアップ。 みんなで輪になるよ、大きく広がって!」と為末先生の合図で児童が広い校庭へ駆け出しました。

まずは全員で円陣を組んで楽しい体操の時間です。その場でジャンプをして体を温めたら、2人1組で数字を使ったゲームにチャレンジ。 1人が偶数、もう1人が奇数を担当し、数字を呼ばれたほうが相手の手を握り、呼ばれなかったほうは握られないように手を引くというルールです。 「5!」「3+2!」と初めは簡単な数字でしたが、だんだん計算式が複雑になってくると、あちこちでキャーキャーと叫び声が上がり、子どもたちの笑顔がはじけました。

続いて、背中におんぶされた人が、おんぶしている人から離れないようにしながら上半身をぐるりと一周するゲーム。バランスを崩して地面に足をついたらゲームオーバーです。 全身の筋力とバランス能力が問われる難易度の高いゲームで、毎回体操の時間で最も盛り上がる場面です。松江市が推奨する「かしこい体づくり」指定校で普段から運動に親しんでいるせいか、 川津小の子どもたちは多くが難なくクリア。「じゃあタイムトライアルにチャレンジしたい人!」と為末先生が問いかけると「はい!はい!」と子どもたちからたくさんの手が挙がり、 体力自慢の児童数名がみんなの前でガチンコ勝負。勝敗を見守る児童の声が校庭いっぱいに響きわたり、心もカラダも温まったところでハードルの練習に進みました。

障害物をどううまく跳び越えたらいい?-目標達成のポイント-

校庭にはあらかじめ高さの違う4段階のハードルが7レーン用意されました。最も高いハードルは中学校レベルのもの。子どもたちにとっては初めて見る高さです。

ここで為末先生が「速く走る方法を知っている人!」と声をかけると、「腕を振る」「足を高く上げる」「頭を前に傾ける」「がんばる」など、さまざまな意見が飛び交いました。
「うんそうだね、いろんなコツがあるけれど、じつは走る時に一番大事なのは姿勢なんです」と為末先生が見本を見せました。

まずは足を90度に開き、そのまましゃがみます。膝を曲げて座った状態のまま、手で頭をひっぱり上げるようにしてまっすぐ立ち上がります。 「これが走る時の正しい姿勢。焼き鳥になった気持ちで、カラダをピーンとするんだよ」と為末先生が解説しました。

姿勢をマスターしたところで、ハードルの練習開始。「まずは、ゆっくり走ってピョーンと跳んでみよう!」という為末先生の掛け声で、みんなが次々と走り始めました。 はじめはハードルに慣れてから少しずつチャレンジしてほしい、という意図から「一番高いハードル以外を跳んでみて」と話していた為末先生でしたが、川津小のみんなは未知の高さに興味津々。 スタート当初から高いハードルに挑む子が続出し、「もう跳べるのか、すごいな!」と為末先生もビックリした様子。

「じゃあ次はもう少し速く走ってみようか。これまでが10分の5の力としたら、今度は7の力で。ハードルを高く跳ぶのは同じだよ。倒してもいいから、スピードを上げてジャンプしてみよう!」

為末先生の指示に臆することなく、子どもたちは勢いよくダッシュ! ハードルを倒してもへっちゃら、中には靴が脱げてもそのまま走りきる子もいるほど、みんなハードルに熱中しています。 その勢いを受けて為末先生も「次はスピードを7から9に上げてみよう」「男子はハードルとハードルの間を5歩で走ってみて」と次々に課題を出していきました。

自分でハードルの高さを選んで超えていく -目標設定-

走り方をトレーニングした後は、跳び方の練習です。ハードルの高さはほぼ同じに揃え、ハードルをうまく跳ぶにはどうすればいいかを学びます。 「犬がおしっこするところを見たことがある人! どんな感じ? やってみて」と為末先生が言うと、児童の一人が代表で犬のおしっこポーズを披露。

「そう、ありがとう! 犬のおしっこみたいに片足を曲げて上げると、カラダは自然と前に傾くんだよね。ハードルを跳ぶ時には、犬のおしっこを意識しながら跳んでみよう。 じゃあ速さの競争をします。他の人より速く走れるかな? よーい、スタート!」

全力でハードルに向かううちに、子どもたちのハードルを跳ぶスピードがどんどん速くなっているのがわかりました。 高いハードルも難なく越えていく子が増え、為末先生も「そう! いいねえ」と嬉しそうです。

最後は、お楽しみのデモンストレーションタイム。為末先生がみんなの前でハードルの高さをグッと上げてひとこと。「これがオリンピックでのハードルの高さです。跳んでみたい人!」

1mを超える高さだけに、いつもの為末大学ならほとんど手が挙がらない場面ですが、そこはチャレンジ精神旺盛な川津っ子。 「はい!はい!」とあちこちから手が挙がり、2人の男子生徒が果敢に挑戦。みごとに成功させて、為末先生はもちろん児童や先生からも「すごい!」と拍手がわきました。

みんなのチャレンジ精神を受けて、今度は為末先生がチャレンジ。「最近跳んでないから跳べるかな、不安だなあ」とぼやく先生に「現役時代を思い出して!」と子どもたちから声援が飛んで、一同爆笑。 みんなの応援を背に為末先生が軽やかにジャンプすると、校庭に響き渡るような大歓声が上がりました。

まとめ  -目標達成はできたか-

「自分で目標を設定して、それをクリアする達成感を味わってほしい、というハードルにこめた為末先生の思いは、川津小のみんなにしっかりと伝わったようです。
「みんな、授業の最初と最後を比べたら見違えるほどハードルがうまくなっていたと思います。ハードルはガンガン倒していいから、この調子でもっともっと練習をすれば、 もっともっとうまくなるから、たくさんハードルの練習をしてください」と為末先生が挨拶をして、体育の授業は終了となりました。

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