香川県のほぼ中央に位置する綾川町は、町名にもなった美しい清流・綾川をはじめ、表情豊かな自然に包まれた山間の町。「たくましい子、自ら学ぶ子、思いやりのある子」を教育目標に、静かな環境の中で子ども達をのびのび育てている町立滝宮小学校が、今回の爲末大学の会場です。



当日は11月の冷たい風が吹き、小雨が時折ぱらつくあいにくの天気でしたが、日本を代表するハードラーがやってくるとあって、校庭には授業を受ける小学6年生だけでなく、 下級生や保護者の方々、近隣学校の先生方なども集い、スタート前から大変なにぎわい。「世界の為末先生にたくさんのことを学んでください」と中塚正則校長が挨拶されると、 みんなで「為末さーん!」と大声でコール。校舎から為末先生が登場すると「ワーッ」と一斉に声が上がり、寒さを吹き飛ばす勢いで授業が始まりました。

ハードルを跳ぶために  -目標設定への道筋-

授業に参加するのは、6年西組・東組の合計48名の子ども達です。いつもは100名近い子ども達が参加する爲末大学食育学部ですが、「少人数だと1人1人をきちんと見られる面白さがある」と為末先生。 その言葉通り、ウォーミングアップから為末先生と子ども達は会話を交わしながら急接近。「寒いから、どんどん動いていこう!」と先生の声かけで、子ども達も大はしゃぎで準備体操にいそしみました。

速く走るにはどんな姿勢で走ればいい? -目標達成のポイント-

続いて、ハードル走に欠かせないスタートダッシュの練習です。
「今日はよけいなことは考えずに、1つだけ注意しましょう。それは姿勢を正しくすること。あおむけになって寝転がって、ひざの裏と首の後ろを地面にくっつけてみよう。 そのまま10秒我慢して」と為末先生が言うと、地面に寝転がった子ども達からは「ムリー!」「足が痛いよー」と弱々しい声が…。

ところが「そのまま立ち上がって、1cmくらい目線が高くなった気分で走ってみよう」と先生が声をかけると、全員が全速力でダッシュ開始! あまりの元気ぶりに為末先生も「いきなり全力疾走だね(笑)」と驚きを隠せません。 それもそのはず、滝宮小学校のみなさんは放課後、校庭に集まって毎日のように運動しているのだとか。まるでスイッチがパチッと入ったように、子ども達のカラダが伸びやかに動いています。

「スタートダッシュの時、前に転ぼうとする力でカラダが前に出るんだ。前足に体重の8割をかけて、転ぶ寸前までカラダを乗り出してみて。そして自分が豹になった気分でダッシュ!」 為末先生の指導通り、地面にくっつきそうな勢いでグッと前のめりの体勢にチャレンジする子ども達。 慣れない体勢に最初はカラダがグラつく子もいましたが、ダッシュをくり返すうちに少しずつ姿勢が安定していくのがわかりました。

自分でハードルの高さを選んで超えていく -目標設定-

いよいよハードル走の時間です。校庭には一番低く設定されたハードル5レーンと、中学生用の高いハードルが1レーン並べられました。

「好きなところを跳んでいいよ! 思いっきり上に跳べば、あとは手も足も自分の好きなようにしていいから。どんどん行こう!」 為末先生の言葉を待ちかまえていたように、「よっしゃー、マリオじゃー!!」と子ども達はハードルを楽しそうに跳び越えていきます。気分は障害を乗り越えていくスーパーマリオ!? しばらくするとハードルのバーが引き上げられ、高さの異なるさまざまなハードルが準備されました。「どんな跳び方をしてもOK! ハードルを倒してもOK!」と為末先生が声をかけた途端、 子ども達は戸惑うことなく目の前のハードルをぴょんぴょんクリア。ハードルを倒しても、転んでも、気にせず最後まで走り抜けていきます。

さらに「ハードルの上に襖(ふすま)があると思って、思いっきり襖を蹴破ってみて!」と跳び方のアドバイスが入ると、無駄な動きが減り、スピードアップする子が続出。 「すごいな、もう教えることないな」と為末先生も感嘆の声を上げるほどです。中にはズバ抜けてハードルのうまい子どももいて、為末先生の指導にも力が入ります。

そんなとき「先生、もっと! もっと高いハードルやりたい!」と子ども達からリクエストが。みんなの声に応えてハードルがさらに1段引き上げられました。バーの高さは107cm。 オリンピックで女子ハードル選手が跳ぶ高さです。大人でも不安になる高さですが、子ども達は今度も迷うことなく目の前のハードルにチャレンジ。 これには見学していた下級生や先生からも「すごーい!」と驚きの声が上がりました。

最後は、お待ちかねのエキシビションタイム。女子選手よりさらにバーを引き上げると、みんなの目の前で為末先生がハードルレーンを駆け抜けていきました。 プロの走りを目の当たりにした子ども達は大興奮! 「為末先生—! サインしてー」と口々に叫びながら先生のまわりに集まり、1人1人がハイタッチしていきました。

まとめ  -目標達成はできたか-

何も考えないで、目の前のことにチャレンジしてほしい! 為末先生がハードルにこめた思いは、みなさんにしっかりと伝わったようです。 「一番高いハードルは大人が跳ぶ高さでしたが、みんながしっかり跳んでくれてとても嬉しかったです。でももっと大切なのは、みんなが最初に跳んだハードルよりも高いハードルを跳べたということ。自分は前より高いハードルを跳べたんだということを、どうか覚えておいてほしいと思います」 為末先生のまとめの言葉で、1時間目の授業は終了となりました。


©NIPPN CORPORATION All rights reserved.