世界の小麦粉料理 第19回

現在でも肥沃な土地にしてくれるユーフラテス川

イラクは、チグリス・ユーフラテス川にはさまれた地域に位置し、かつてメソポタミア文明といわれる世界最古の文明が栄えていました。
豊富な水と肥沃な土地が広がるこの地では、今から6000年も前に、農業が行われ世界で初めて小麦も栽培されました。
狩猟により、食を得ていた時代は、ひとところに永住することなく、獲物を求めて各地を転々としていました。安定して穀物を自給できるようになり、人々が定住することにより、羊や山羊の牧畜もはじまり文明は一気に開化しました。食の安定供給が新しい文化を生み出す基となったのです。
ワインやビール、コーヒーもこの地で生まれたものといわれています。
イスラム教ではお酒は禁止されていますが、お酒はイスラム教が生まれるずいぶん前からこの地では存在していました。
イラクには、シュメール人、アッカド人、バビロニア人にはじまり、ペルシア人、ギリシャ人、アラブ人、モンゴル人など古代から近代にかけて、さまざまな民族が足跡を残していきました。

現代のイラクは世界有数の原油埋蔵国であり、他の中東の国々と同様に、原油が経済を支えています。ただし、イラクには農業の伝統が残っており、国土の13.8%が農地で、小麦も年間220万トンも収穫されています。これほどの農地は他の中東の国にはありません。
イラクの人々にとってなくてはならない干し柿に似た味「ディーツ」とよばれるナツメヤシも世界の3割以上を収穫しています。
稲も主要作物のひとつで、小麦料理に並んで、米料理も多くの家庭で食べられています。

イラクはイスラムの世界の中では比較的自由な面が多い国といわれています。(これは近年の二つの戦争を経たこととは関係有りません。)
お酒は飲んでも構わない、飲む、飲まないは個人の裁量が尊重されます。
イラクはイスラム世界の中では女性の進出がもっとも進んでいる国のひとつです。
イラクの女性は肌や髪を覆う黒いペールも任意なので、着用していない人のほうが多いようです。
また、教育を受ける機会や公務員試験を受けることも男性と同様に与えられています。

今回ご紹介する「ホブス」は、イラクの家庭やレストランでもっとも食べられている伝統的なパンです。薄焼きの丸いパンをちぎって肉をはさんだり、スプーン代わりにしてスープをすくって食べます。
イラクでは、ドライブインや地方都市の食堂でも、席に着くと注文しなくとも、レンズ豆のスープやサラダ、ピクルスなどの前菜とホブスが無料でついてくるそうです。
この後にケバブなどの主菜となるのですが、あわせるとかなりの量になるそうです。
「足りなかったとはいわせない」というのがイラクの食のもてなしで、家庭でも食堂でも食べ切れなくて残すのは決して失礼なことではないのだそうです。

イスラム教には断食の習慣があります。断食といっても、日没後は自由に食べることができるそうです。朝から長い時間食べていないと甘いものを欲するらしく、小麦粉と名産品「ディーツ」を使ったお菓子がいろいろと作られているようです。
機会があれば、イラクのスイーツもまたご紹介いたします。

出典

  • 「目で見る世界の国々 イラク」国土社
  • 「ナショナルジオグラフィック 世界の国 イラク」ほるぷ社
  • 「世界の料理」ポプラ社
  • 「国際理解に役立つ世界の衣食住 3」小峯書店
  • 「知っておきたい「味」の世界史」角川ソフィア文庫
  • 「世界地図から食の歴史を読む方法」河出書房新書
  • 「世界 地名の旅」大月書店
  • 「おもしろくてためになる 世界の地名雑学事典」日本実業出版社
  • 「世界たべものことわざ辞典」東京堂出版
  • 「イラクは食べる」岩波新書
  • 「イラクの小さな橋を渡って」光文社

岡嶋芳枝(オカジマ ヨシエ)

岡嶋芳枝(オカジマ ヨシエ)

フードコーディネーター。
コルドンブルーに通いフランス菓子を学び、同時期に都内のパン教室でパン作りも学ぶ。
その後、料理研究家のアシスタントなどを経て独立。現在「Witch’s Kitchen」主宰
自宅で開催する料理教室では誰にでも簡単に出来るアレンジ家庭料理を提案している。
その他、オリジナル菓子をインターネットの店舗に提供したり、カタログや広告媒体の料理製作、スタイリングなどにも携わっている。

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