世界の小麦粉料理 第12回

私が初めて食べたロシア料理と言えば、“ピロシキ”でした。
と言っても、今の認識とは随分と違うものでした。近所のパン屋さんで売られていたそのピロシキはラグビーボール型のカレーパンのような見た目で、挽肉の具が包まれていて、パン粉の衣をまとって揚げられたものでした。パン教室で習ったピロシキも、具に春雨がプラスされ、やはりパン粉の衣をつけたもの。結構大人になるまで私のピロシキの認識はこうでした。
ピロシキはロシアでは日本のおにぎりのような存在で、普通のパンのようにオーブンで焼くタイプもあり、ヨーロッパ側では焼くタイプ。シベリア側では揚げるタイプが一般的なのだそうです。そして、揚げるタイプはパン粉は使いません。
日本で初めてロシア料理専門店で食べた時に、あれ?パン粉が無い、と言ったらロシアではそれが普通だよ、とご主人。そして多種の具のバリエーションがあるのにも驚きました。

そう言えば、他にもイメージしていたものとは違うものがいくつか・・・。
例えばボルシチ。
ボルシチも赤いスープにじゃが芋やにんじんなどの野菜がごろごろと入ったポトフのようなイメージが定着していますが、ロシアの家庭ではスライサーで野菜は細切りにして作るほうが一般的なようです。元々はウクライナの郷土料理ですが、ロシア全域で食べられているお料理です。ピロシキがおにぎりなら、ボルシチはお味噌汁のようなものかな。あの赤いスープはトマトの色と思っている人も多いようですが、“ビーツ”(日本語ではビートと表記されることも)という、地中海沿岸が原産でアカザ科の越年草が原料です。独特の赤紫色の野菜で砂糖をとるシュガービート(てんさい)と同種です。糖分があるだけでなく、ミネラルやビタミンBやCも含んでいるので、重要な栄養源となります。日本では赤カブと呼ばれることもありますが、カブの仲間ではありません。「カエンサイ」が正式な和名。最近は生のものも売り場でたまに見かけますが、そのまま下処理無しで使える水煮の缶詰もあります。ボルシチにはもちろん、ポテトサラダに混ぜれば、ピンク色のロシアンポテトサラダになって、パーティーなどで出しても喜ばれます。

ロシアは世界地図を見ても解かるように、国土が広く隣接している国が多いので、多民族で構成されている国です。郷土料理は東西南北それぞれ周辺の国の影響を受けているものが多いようです。パンの種類も様々です。
ライ麦パン(黒パン)が多いのですが、その理由は寒冷な気候や痩せた土壌という悪条件のもとでも、ライ麦は強く育つという性質だからでしょうか。ロシアのライ麦パンは、ドイツのものとは味も焼きあがりの感触も違い、どちらかというと、ポーランドのライ麦パンに近いと言われています。酸味も強く、かなり硬いパンで、噛むほどに味わい深いパンなのです。現在では、小麦粉で作った白パンも多く食卓にのぼるそうです。

ほんの少しですが、ロシア料理について書いてみました。今月のおすすめはもちろん、手作りのピロシキ。私は揚げたタイプの方が好きですが、お好みで溶き卵を表面にぬってオーブンで焼いても美味しく頂けますよ。

そうそう、長い間誤解していたことをもうひとつ。日本で“ロシアンティー”とは、紅茶にジャムを入れて混ぜて飲むもの、というイメージが定着しましたが、本来は、いわゆるジャムよりも短時間で煮上げ、ペクチンが出る前くらいに火を止めた“ヴァレーニエ”を紅茶には入れずに、紅茶に添えてお茶請けにして頂く飲み物です。


参考文献
・家庭で作れるロシア料理(河出書房新社)
・世界食文化(19)ロシア(農文協)
・ロシア文学の食卓(NHKブックス)

岡嶋芳枝(オカジマ ヨシエ)

フードコーディネーター。
コルドンブルーに通いフランス菓子を学び、同時期に都内のパン教室でパン作りも学ぶ。
その後、料理研究家のアシスタントなどを経て独立。現在「Witch’s Kitchen」主宰。
自宅で開催する料理教室では誰にでも簡単に出来るアレンジ家庭料理を提案している。
その他、オリジナル菓子をインターネットの店舗に提供したり、カタログや広告媒体の料理製作、スタイリングなどにも携わっている。

岡嶋芳枝(オカジマ ヨシエ)

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