世界の小麦粉料理 第7回

インドは何かと食のタブーの多い国。それには宗教上の関係が深く関わっています。
インド人の大半が信仰しているヒンドゥー教では、牛を聖なる動物として、食べることを禁じています。
我々日本人にとっては、牛肉は高級な食材、ご馳走とされていますので、これだけでも随分違いを感じます。とは言っても、キリスト教徒の多いケララ州にはビーフ(牛)カレーもあるようです。インド人は全員が牛を食べない、と言う訳ではなく、宗派によるもののようです。
豚もヒンドゥー教徒のほか、人口のおよそ一割の人口を占めるイスラム教徒が食べることを禁じられています。その理由として、牛は神の使いであり、神聖で清浄な動物である、とされていますが、豚は排泄物をも食べるため汚れた動物として扱われているからだそうです。
宗教上の理由で菜食主義者の多いインドではたんぱく源としてダール(豆)をよく食べ、野菜を使ったおかずも多種多様です。スパイスもふんだんに使うので新陳代謝も良く、薬膳的な役割もあります。

インド料理屋に行くと料理は、“ターリー”という平らなステンレスの大皿の上に、“ワーティー”と呼ばれるステンレスのお椀(中にはにカレーなど)やサフランライス、ナン、ピクルスなどが一緒に盛られて出てきます。インドの家庭でもほぼ同様で、ひとつの鍋や大鉢に盛られた料理をみんなでつつき合うということは、不浄な行為で考えられないことだそうです。
不浄(血液や唾液で感染してしまうこと)を防ぐために、食事は各自のお皿に盛られ、他の人に分けることはありません。インドでは食事は箸やフォークなどを使わずに、手で食べるからでしょうか。日本では取り箸や取り皿を使って大鉢の料理を家族みんなで分けて食べることが普通ですが、そういった感覚は無いのですね。

身近にあるバナナの葉も食器として使われます。やはり不浄とされる左手はいっさい使わず、右手指先だけでカレーやご飯を混ぜ、器用に口に運びます。私も一度見よう見真似で試したことがありますが、ポロポロと落としてしまってうまく食べられませんでした。

また、カレーにはナンが定番と思いがちですが、ナンは“タンドール”というつぼ型の特別な釜で焼くため、家庭では焼けず、フライパンで焼ける円盤型の“チャパティー”の方がインドの家庭ではポピュラーだそうです。ナンはそもそも北インドのパンジャーブ地方だけで食べられていた宮廷料理で、この地方でも今も家庭にはタンドールはありません。ナンは、日常的に食べられているものでは無いようです。
でも、今回のレシピはフライパンで焼けるナンをご紹介します。
生地はバターロールなどと同じパンミックスで作りますが、成形を変えてフライパンで焼くだけで、オーブンで焼いたパンとはまた違った味わいになり、お馴染みのナンのように焼き上がります。早く煮えてお手軽なレンズ豆を使ったダール(豆)カレーと一緒に是非お試し下さい。。バナナの葉を敷くと、ぐっと雰囲気も出ますよ。バナナの葉は日本でも外国人向けのスーパーやエスニック食材のお店で手に入ります。

さて、インドと言えば豊富なスパイスでも有名です。
日本でいう醤油の代わりにインドの料理ではスパイスという感じで、いわゆる私たちが思うあのとろっとした汁系のカレーばかりでなく、野菜のおかず(炒め物や煮たもの色々)やディップ状のものなど様々なバリエーションがあります。 スパイスを使った野菜のおかずを“サブジ”と言い、日本でいう「お袋の味」にあたります。
ところで、私たちが普段使っているカレーパウダー、これはインドのものと思いがちですが、実は16世紀にイギリス人が作り出したものなのです。植民地インドからスパイスを持ち帰ったイギリス人が、いくつかのスパイスを粉にして混ぜ合わせたものからできたのがカレーパウダー。インド発イギリス作のミックススパイスなのです。
ですから、インドでは当然できあいのカレーパウダーを使うことはありません。ちなみにガラムマサラもミックススパイスです。家庭やメーカーによって配合は少し違うようですが、クミンやコリアンダー、ターメリックなど数種のスパイスがブレンドされていますので、ご家庭ではこれらの中から一つか二つあれば具材を変えて色々なカレーのバリエーションが出来そうです。あとはお好みで辛味成分の強いチリパウダーを足したり、クミンで更に香を高めて本格的な味わいを目指すなど工夫をして、自分好みのカレー作りにチャレンジしてみてください。今月はインドへ旅した気分でお楽しみ下さい。

参考文献
・ スパイス名人宣言(雄鶏社)
・ インド家庭料理「カレーとサブジ」(中央公論新舎)
・ 世界の食文化(農文協)

岡嶋芳枝(オカジマ ヨシエ)

フードコーディネーター。
コルドンブルーに通いフランス菓子を学び、同時期に都内のパン教室でパン作りも学ぶ。
その後、料理研究家のアシスタントなどを経て独立。現在「Witch’s Kitchen」主宰。
自宅で開催する料理教室では誰にでも簡単に出来るアレンジ家庭料理を提案している。
その他、オリジナル菓子をインターネットの店舗に提供したり、カタログや広告媒体の料理製作、スタイリングなどにも携わっている。

岡嶋芳枝(オカジマ ヨシエ)

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