坂本雄次の訪問!スポーツ人 vol.10 上田藍さん

祝2008年北京五輪に続き、2012年ロンドン五輪出場!

坂本雄次さんと上田藍さん

坂本雄次(以下 坂本)  北京オリンピックに続いてロンドンオリンピックと、2大会に参加されましたが、1回目と2回目では違いましたか?

上田藍(以下 上田)  全然違いました。高校卒業して7年計画でオリンピックを目指していたので、北京のときにはオリンピックに“出場する”ことに主眼を置いていたと思います。
オリンピック出場の選考レースに通ることに重点を置いていたので、メダルを取るモチベーションを上げるのは、出場が決まってから本番までの3ヶ月間で行いました。
初めてのオリンピックを経験したときに、メダルを取る選手は「自分がメダルを取る」という思いの強さも違うなと痛感したので、北京を終えた日から、ロンドンでは“私がメダルを取る”という気持ちで日々を積み重ねていました。
ロンドンオリンピックの選考レースは、ゴールではなく過程でなければいけない、本番に向けていかに戦うのかということだけを考えて進んでいました。
心の面も含めた心技体で準備をしっかりと組み上げられたのがロンドンでした。

坂本  なるほど。意識が全く違っていたと言うことですね。4年経つと、体も変わるし、周りの競技レベルも当然変わってくるでしょう? 特に、北京からロンドンまでの4年間で、国際レースもたくさん出ていらっしゃいます。短く言うと単年度の目標があり、ロングスパンで言えばオリンピックが最終目標になってくるかと思うのですが、そういうときに国際レースに出ている自分のモチベーションの持っていき方はどのようにするのですか?

上田  北京を終えてからロンドンに向かうまでの4年間はイギリスがメダル獲得に向けて力を入れていたので、ニューフェースの選手の特徴を見逃さないためにも、私は多くのレースに出場しました。体はタフなほうで連戦もきく体をしていたので、どんどん経験を積みました。

坂本  上田さんはランが得意ですが、10kmをどのぐらいで走りますか。

上田  レースでは33分47秒がベストタイムです。自分のレーススタイルとしてはランニングが得意なので、いかにラン勝負に持ち込んでいくかという展開をつくっていかないといけません。最低でも第2集団辺りでスイムを終え、そこでバイクの得意な選手と協力していかに早く先頭集団に追い付くかということが重要になってきます。バイクのときには、ドラフティングといって風よけを交代でしながら、時速40kmのスピードで走ります。そのとき一緒にいる選手と協力し合わないといけないので、周りの仲間を増やす意味でも「上田藍」の顔を覚えてもらう必要がありました。

坂本  ドラフティングは、みんなちゃんと守るのですか。

上田  やはり、ランニングまで体力を残すためにうまいこと後ろのほうにいる選手もいます。でも、そういった選手は「あなた、前に出なさい」と、名指しで怒鳴られたりします。

坂本  レース中にですか?

上田  レース中です。名指しされても、「私に言っているの?」ぐらいの顔をして乗っている人もいます。それぐらいのタフさも必要だと思います。

坂本  確かに。最後に自転車で、次のランパートに入るために足を残してということになると、当然どのぐらいのタイム差でランに入っていくかということになるでしょう。慎重にレースを組み立てていかなければいけませんね。

幼少時代から トライアスロンに出会うまで

上田藍さん

坂本  上田さんはどんなお子さんだったのですか。

上田  すごく負けず嫌いだったようです。

坂本  勝負師には絶対それが不可欠でしょう。

上田  2つ年上の兄がいるのですが、何をやっていても最終的には「私ができる」と押しのけていました。兄が父親とキャッチボールしていたら「私もやる」と言って、いつの間にか兄を押しのけて私がキャッチボールをしたり、「私が、私が」というアピールするようなところがありました。

坂本  スイム1.5km、バイク40km、ラン10kmで51.5kmというトライアスロンを始めたきっかけは何だったのですか?

上田  4歳ぐらいからスイミングスクールに通い出したので、最初の経験はスイミングでした。でも、水泳ではジュニアオリンピックや選手育成コースで泳ぐレベルにはなく、スイミングスクールに通っていても、トップで泳ぐ選手に周回遅れにされるような状況で、水泳のほうでは目指していた目標というよりも自己ベスト更新のレベルでしかありませんでした。
両親が、燃え尽きるのではないかと思って、得意な走るほうで何か勝つ喜びを教えてあげなければと、日曜日にランニングの大会に連れだしてくれたのです。そこで3kmのロードレースなどやりました。小学校のときには「S&B杯ちびっ子健康マラソン大会」というのがあって、小学校3年生からその大会に参戦し、小学校6年生のときに全国大会に行きました。各都道府県で優勝すると、東京で全国大会があるんです。小さいころは住んでいる京都から東京に行くだけで楽しそうなので、頑張って勝って東京に行ったりして、陸上のほうで勝ってモチベーションを上げることができていました。
中学では兄が先に水泳部に入っていたので、その流れで私も水泳部に入部しました。でも陸上部の即戦力になるということで、駅伝の助っ人にも借り出されていましたので、中学時代は、水泳部にいながら、冬は駅伝というかたちで走ることになりました。中学3年生の年には、目標だった全国中学駅伝に勝ち進むことができました。目標を掲げて初めて達成できたのが水泳ではなく陸上だったので、高校は陸上部に入り、3,000mトラックをしていました。

坂本  そうですか。今は、高校生ぐらいになると3,000mトラックは速いですよね。

上田  速いです。結果的には7位で近畿大会に進むこともできず、インターハイの夢ははかなく散ってしまいました。ずっとスポーツが大好きでそれを中心に生活してきていたので、高校卒業後の進路を決めるときに、スポーツはしていきたいとは話していましたが、陸上では自信がありませんでした。
幼いころから通っていたスイミングスクールに、トライアスロンをしているおじさんがいて、私に「トライアスロンがあるじゃない。やってみなよ」と、ずっと声を掛けてくれていたんです。始めは「私は水泳一本なので」などと言っていたのですが、やってきた水泳と陸上に、自転車を入れればトライアスロンで、好きな種目がそろっていて魅力があるなと思うようになりました。

坂本  高校卒業するときには、トライアスロンに行こうと決めていたんですね。

上田  そうです。高校3年生の時、まずはトライアスロンにチャレンジしてみようと思い、部活動の練習が終わったあと自分でスイミングスクールに通い直しました。
自転車は、部員はいないけれども顧問の先生だけ残っている状況の自転車部がありました。
部室に27インチのバイクが1台だけ置きっぱなしになっていたので、陸上部顧問の先生に相談したところ、「上田がトライアスロンにチャレンジしたいので自転車なんとかならないか」と自転車部の顧問にかけあってくださったのです。
その自転車部の先生は一緒に練習できる生徒が来たということで、残っていた自転車をメンテナンスしてくださり「じゃあ、琵琶湖に行くぞ!」と、いきなり琵琶湖に連れていかれました。(笑)

坂本  へえ。琵琶湖は1周250kmぐらいあるでしょう?

上田  あります。先生と離れてしまうと道がわからなくなってしまうので、必死についていったのを覚えています。

坂本  そして高校卒業後、千葉のクラブチームに入ったのですよね。

上田  そうです。「よし、トライアスロンしよう」と思ったものの、どうしたらいいのかわかりませんでした。私は本格的にやりたかったので、トライアスロンの雑誌をくまなくチェックしたところ、山根英紀コーチが「ランニングが得意な選手でも強くなれる」というコラムを書かれておられました。
行動派の父がクラブに電話をし、山根コーチにお目にかかるアポを取りました。私はやる気満々で、その場で勝手に「よろしくお願いします」と、父そっちのけで話をして飛び込んでいきました。
山根コーチには「やる気があれば来ればいい」と仰っていただきましたが、実際に伺ったら、「本当に来たの?」と驚かれました。(笑)

トライアスロンのトレーニング

坂本雄次さん

坂本  千葉のクラブに行って本格的に練習を始めたのだと思いますが、基本的にはアルバイトをしながら時間を作って練習をするんでしょう?

上田  そうです。拠点としているスイミングスクールのフロントでアルバイトをさせていただいていました。朝スイムの練習をしたあと、すぐにアルバイトに入って、鍵渡しや電話の受付をしていました。

坂本  3種目あるので、練習はどのようにするのですか。

上田  アルバイトをしている時は、朝早い時間に最初に水泳の練習でした。
一般の方が来られるのが8時45分からなので、逆算をして、長く泳ぐときには5時半からプールを開けていただいて泳いでいました。

坂本  毎日3種目やるのですか?

上田  毎日ではないです。3種目ある日もあれば、水泳とランニングだけの日もあります。
3種目する日だと、朝2時間で6,000mから7,000m泳いで、そのあと千葉県内から車の少ないところへ移動して100kmから130km自転車に乗ります。帰ってきて昼食後に、15kmのクロスカントリーの練習と体幹トレーニングをやるのが、一番ボリュームのある日になります。
ボリュームを下げて質を上げる練習をする日もあります。その時は、スイムでは3,000m、バイクも100kmも乗らずに集中して30kmのインターバルをインドアで自転車を固定して乗り、最後は5kmのランニングを走るような練習になったりします。
そういった流れの中でもスイム・バイク・ランの順番でトレーニングをすることがとても重要で、独特です。スイム・バイク・ランと疲労がある中で、いかに体を動かしていくのかということです。1種目ずつ切って練習をして単発で速くても、合わさると弱い選手もいるのです。
スイムをやった疲労の中でバイクをやるという流れをつくるトレーニングの順番がすごく大切です。

坂本  よく、スイムとバイクとランで使う部位が違うから続けられるという話があるでしょう。私は少しだけそれをやろうと思った時期があって、転倒して骨折して止めたんです。

上田  そうですか。

坂本  上田さんのレベルになったら全くそんなこと感じないと思いますが、スイムからバイクはいいのですが、バイクからランだと全く体の感覚が変わるでしょう?

上田  変わりますよ。バイク後の、ランニングの走り出しは重いです。自分の脚ではないような感覚になります。そこから自分の理想としているフォームに近づくまで馴染ませる時間を短くするため、練習で感覚を養っていきます。
ランのトレーニングでも、最初の9kmを登りっぱなしで登っていって、そこから平地になったところで3kmのタイムトライアルをします。疲れた足で、そこからスパートをかけられるような練習をしたりもしていました。わざと疲労を貯めて、そこからパンとスピードを上げられるような練習です。
特に私は、スイムでの遅れをバイクで挽回するので、絶対的にバイクで力を発揮しなければいけない展開になるのです。足を使い切った上でいかにランのパフォーマンスを上げていくかというところに重点を置いてトレーニングをしていた時期には、自分の感覚ではないものからどう走るように馴染ませるのかという感覚を研ぎ澄ませる練習をしていました。
私の場合だと、最初の1kmをしんどいながらもちゃんと3分12秒前後でいくようにします。
感覚ではもっと追い込んでいるつもりでいても3分12秒です。
そのあとは落ちていってしまうので、そのタイムをキープすることで、最終的には33分30秒から40秒がロンドンでの金メダル争いになるであろうと言われていました。

ハードな練習を支える食生活

坂本雄次さんと上田藍さん

坂本  食事で気をつけていることはありますか?

上田  自炊を始めたばかりの頃は、お米でお腹いっぱいにしてしまっていたので、山根コーチから「お米の糖質で太ってるんだぞ」と、怒られたことがあります。トレーニングでハードな練習をしたときにはしっかり高タンパクの食事を取るというような基本的なことから、コーチに教えていただきました。

坂本  体を動かしている時間も長いし、当然必要な熱量というのは高くなってくると思います。ただ運動するためのエネルギーだけではなく、使ったあとの体は筋繊維も壊れているし、それをリカバリーしていくような食事ということになると思います。体力の回復のためということで、何か心がけていたことはありますか。

上田  高タンパク食でも動物性と植物性のもの両方食べるようにしていました。どちらかと言えばお肉のほうが料理しやすかったので、私は豚肉や鶏肉の料理が多かったのですが、コーチには「魚も食べなさい」と、最初のうちはよく注意されていました。コーチには本当に1から教えていただきました。
オフの日は、料理を作りだめします。女子アスリートは鉄分不足で貧血になるのが一番怖いので、レバニラとひじき煮は多めにどんと作っています。それさえ作っておけば、ご飯を炊いて混ぜご飯的にひじきおにぎりを作って朝食にもできますし。

坂本  鉄分は大切ですよね。スポーツ性の貧血が持病のようになってしまうと、なかなか回復するのが大変だと、ランニングの世界でもよく聞きます。

上田  そうですね。後輩も、貧血になった選手は力が出なくてずっと悩んでいたりしました。

坂本  疲労回復のために食べていたものや、故障予防のために意識的にとったものはありますか。

上田  私は京都出身なので、水炊き(鶏がらのスープ)をよく作ってもらっていました。「コラーゲンが関節にいい」と飲ませてもらっていましたので、今は自分で鶏ガラを4時間くらいお鍋で煮て水炊きを作り、「私はこれで故障しない」と勝手に思い込んで食べます。

坂本  レースの時はどうしていますか?

上田  コンドミニアムタイプでキッチン付きのホテルをとって、いつもどおり自炊をしてレースに向かうという状況を大切にしています。
2時間前後のレースになってくるので、カーボローディングが一番重要です。
海外遠征が多い中で絶対的に食べられるのはパスタだったので、いつもパスタをつくって食べていました。私はニンニク料理が好きなので、ニンニク入りのペペロンチーノをよく作っています。レース前日まではパスタを食べて、レースが終わったあとは、ご褒美にお肉をたっぷり食べます。

坂本  どのぐらいの量を食べるのですか?

上田  食事量は多いほうです。2時間から2時間半かけてゆっくりよく噛み、最後の最後まで食べている選手です。「ゆっくりと、一番量を食べる」と皆さんに笑われます。レースの日の夜に600gのステーキを食べていたら、コーチに「お前、内蔵疲労大丈夫なのか」と心配されたことがありました。(笑) 合宿期間中、内蔵疲労がある中でもしっかり吸収はできるように、「これはふくらはぎの筋肉になる」と思いながらお肉を食べるなど、思いを込めて食べるようにしています。

坂本  なるほど。

上田  どうしても練習で疲れてしまい、コンビニで買って済ませることもありますが、最近は無添加のものが増えていますし、裏にカロリー、タンパク質量が書いてあるので、「これだけ食べれば何カロリーでどれぐらいのタンパク質がとれる」という勉強にもなります。
今でも商品の裏面をまじまじとチェックしてしまう癖が残っているので、「トライアスロンの上田藍選手ですか」と、何度か気づかれたことがあります。(笑)

坂本  練習中の補食や水分補給はどうしていますか?

上田  水分補給の部分では、スポーツドリンクでエネルギー補給しています。
自転車の練習中の補食は、赤飯やおこわなどもち米系のものを食べるようにしています。

坂本  栄養補助食品は利用していますか?

上田  1日の食生活を振り返って、鉄分補給やプロテインなど、足りないものはサプリメントで補っています。合宿期間中には1.5倍にして、1日に摂る分を倍にして、などと考えてとったりしています。

坂本  勝った時のご褒美になるような食べ物は何かありますか。

上田  私は濃厚なチーズケーキが大好きです。これぞハイカロリー!といもうのが大好きなので、ケーキは吟味します。自分のご褒美なのでケーキで失敗すると、がっかりしてしまうことがありますから。(笑)

坂本  チーズケーキでも、スフレやレアがあるでしょう。こってりしたものがいいわけですか。

上田  生クリームもレアチーズケーキも好きですが、フワフワなのはあまり好きではありません。

坂本  頼りないからでしょう?

上田  はい。こってりしたものが好きで、幼いころは、本当にステーキの脂を最後に残しておいて食べるぐらい大好きでした。すきやきの最初に油を引く脂身も食べていたくらいです。(笑)

坂本  細いのにね。(笑)

トライアスロンは過酷?

上田藍さん

坂本  競技が嫌になったことはないですか?

上田  ないです。やったことが結果につながっていくので、それが楽しくて、そのまま今日まできています。ハードな練習メニューをしても次の日にけろっと、「おはようございます!」と笑って来るので、コーチには「練習が足りないのかな?」と思われてしまうぐらいです。(笑)

坂本  それは最高ですね。競技の醍醐味を教えて下さい。

上田  トライアスロンでは、世界記録というものがなく、純粋に順位だけで決まります。

坂本  そうなんですか。

上田   例えば11月の日本選手権東京港大会では、最後のランで私は後ろを1分差で離してのフィニッシュを迎えました。
世界記録更新というものがないので、沿道で応援している方たちとゆっくりハイタッチをしながらフィニッシュができました。記録更新のためにタイムを気にする必要のある競技ではこういうことはできないですね。応援してくださる方たちと一体になってレースを楽しめるというところが、トライアスロンの魅力だと思います。
また、公道を使ったレースなので、沿道からの応援を手の届くような近さで感じることができます。これはマラソン大会もそうですが、公道を使ったレースならではですね。
あとは、スイム・バイク・ランの3種目あるので、タイムを縮めるのに得意な種目を伸ばしていくのか、もしくは課題の多い種目を伸ばしていくのか、モチベーションを高く持ち続けやすい部分もあると思います。故障で膝を悪くしても、プールで浮きブイを足に挟んで、膝に負担がかからないようなスイムのトレーニングもできますし、練習を継続しやすい、何かしら前に進みやすいというトレーニングの仕方ができると思います。

坂本  トライアスロンは距離が長く、“鉄人”というのが先走りして、どうしても取組みづらいと感じる方もいらっしゃいます。

上田  生涯スポーツとしては過酷と思われてはいますが、一つずつ取ってみれば、今ブームになっているランニングとサイクリング、あと水泳は、スイミングに通われている方多いですし、1種目ずつが健康スポーツのかたまりなのです。
最近は、マラソンされた方が、トライアスロンもしてみようかな、というような流れでトライアスロン人口も増えてきているのは嬉しいですね。

坂本  あとは、日本の場合は環境の整備ですよね。日本は車が多く走っているから、かわいそうだなと思います。私たちは「湘南国際マラソン」というマラソン大会をやっていますが、あれは42km切ってあるので、そこで自転車のレースを種目設定にしたら、大勢いらっしゃる参加者にとっても、自転車の愛好者にとっても、いいと思います。自転車の表現の場所があれば、やがてトライアスロンの種目にも結び付いていくのかなと、ふと感じました。

上田  そうですね。そのとおりだと思います。都内でスポーツをしていると自転車に乗る環境を探すのに苦労します。車に自転車を積んで移動してからとなると、なかなか自転車の練習はできないと言っている方は多いです。
そういった部分で海外と比較すると、ヨーロッパでは自転車の文化があるので、自転車道路があって、どこでも乗れる環境があります。徐々に日本国内でも自転車専用レーンができてきたという話も聞いているので、少しずつそういった環境はできているのかなと思います。反面、まだマナーの悪いサイクリストの方が信号無視したと聞いたり、自転車は危険という悪いニュースが流れたりすると悲しくなります。

オフの日の過ごし方 気分転換方法

坂本雄次さん

坂本  8時間などの長い時間練習やる日もあるでしょうし、当然レースもあると思います。疲労回復のために、オフの日はどんな風に過ごしているのですか?

上田  オフの日はいつも12時間寝ます。12時間寝られなかった時、「今日は11時間しか寝なかったんです」とコーチに報告メールをすると、「11時間寝ていたら十分だ!」と怒られたりします。(笑)

坂本  12時間睡眠! 起きた後は何をしていますか?

上田  まず12時間どーんと寝て、起きて、炊事、洗濯。オフの日は具材いっぱいの鍋を作ることが多いです。“作って食べる”という習慣を大切にしています。あと、絵を描くのが好きです。両親が手描友禅の職人だったこともあり、幼いころから美術館などによく一緒に連れて行ってもらっていました。幼稚園のころは絵描きさんになることが夢で、小学校6年生までは、絵画教室に通っていました。今でもちょっとしたときに目の前にあるコップを描いたりしています。
その流れで絵日記もつけています。今回ロンドンオリンピックを迎えるときに、2008年の北京オリンピックのときの日記を読み返してみたら、「こんなに練習できて幸せ」などと書いているのです。そういう気持ちでやっていたのかと思いますよね。そして当時の日記の最後に「あとがき」を書いているのですが、「2011年にロンドンオリンピックの代表に決まっている」と書いてあって…、それが実現していると思って感動しました。

坂本  動的なことをしている人に限って、その対極にあるようなことをして、精神的にもいいんでしょうね。作家の村上春樹さんはトライアスロンもやるし、100kmマラソンもやります。

上田  そうですね!

坂本  私が毎年ギリシャに行っているスパルタスロンというレースも、初めて現場で見て日本に紹介したのはあの方だと思います。だから、対局にあるもので自分のバランスを取っているところがあるのかなと思いました。

夢を実現するための日記

坂本雄次さんと上田藍さん

坂本  先ほど絵日記のお話をされていましたが、それとは別に「感謝日記」というものもつけていると聞きました。あれは自己暗示ですか。

上田  そうです。2008年の北京オリンピックを終えたその夜から、ロンドンオリンピックまで毎日、「2012年8月4日、ロンドンオリンピックで金メダルを勝ち得ることが出来ました。ありがとうございました」と書いていました。未来日記なので、過去形で書きます。自己暗示とイメージトレーニングです。今はリオに向けて、書いています。

坂本  どういうきっかけで始められたのですか。

上田  今まで、感謝の言葉を伝えることはできていましたが、やはり書いた言葉を見ることもイメージトレーニングや自己暗示ではないかと思います。私がいつもお世話になっているトレーナーの方に「書くことは重要だよ」と、教えていただいたことをきっかけに、2006年のアジア競技大会から始めました。
今年のロンドンオリンピックを迎えるまでに、「ワールドカップで優勝できた」というようなことを書いていたのですが、本当に優勝できて完結する確率が上がっていたので、これを書くことによって、私は本当に夢を実現してきているという自信をつけるノートにもなっていました。
その中には、実現しないこともあったのですが、そこで課題を得た上でそういう結果に終わっているので、また新たな目標を書くようにします。それは妥協ではなく、また次に向かってのモチベーションを上げるためと意識付けをするために続けています。

今後の抱負

坂本雄次さんと上田藍さん

坂本  ロンドンオリンピックが終わって、今度はリオですね。

上田  当面の一番の目標は、取れなかったオリンピックの金メダルを取るために、今までの北京からの4年計画を8年計画に切り替えていきたいとコーチにお願いをしました。まず来シーズンの「ワールドトライアスロンシリーズ」というレースで表彰台に上らないと、オリンピックの道は鮮明には見えてこないと思います。

坂本  シリーズのどこかの大会でということではなく、トータルで入りたいのですか。

上田  そうです。年間に8レースあるので、その8レースの中で、まず1戦だけでもいいので表彰台に上りたいです。
そのシリーズ戦の中で獲得したポイントの年間ランキングが1位になることで、世界1位になります。そのランキングでも入賞ラインの8位以内に食い込んでいけるような選手になっていかないといけないと思っています。

坂本  リオデジャネイロのオリンピックでは、32歳になりますね。
そのぐらいの年齢で第一戦でやっている人はいらっしゃるのでしょう?

上田  はい。持久系スポーツなので、一番アスリートとしても脂の乗っている時期になります。

坂本  私たちも楽しみにしています。

上田  頑張ります。ありがとうございました。

「運動」と「食」について

こばたてるみ

公認スポーツ栄養士 管理栄養士・健康運動指導士
株式会社しょくスポーツ代表 こばた てるみ

3年間の銀行勤務後、スポーツ栄養の世界へ。日本初の公認スポーツ栄養士16名のうちの1人。現在、栄養サポートを行っている「清水エスパルス」をはじめ、競泳オリンピックメダリストやプロ野球、箱根駅伝選手など数多くのサポートを手がける。また、ビジネスマンやOLの方向けのヘルシー&ビューティーレシピの提案や、10日で3万食完売したスポーツ弁当をはじめ様々な商品開発、料理番組出演など幅広い活動を行っている。地域食材を使った料理と共にお酒を楽しむため、テニス、ゴルフ、ランニングで汗を流している。

助言を活かした自炊が強いトライアスロン選手をつくる

 人懐っこい笑顔と小柄な体格からは想像できないほど「よく食べるアスリート」、それが2度のオリンピック出場を果たし、リオ五輪で上位入賞を目指しているトライアスロン上田藍選手の第一印象です。そしてその可愛らしい外見と強くカッコイイ実物のギャップを埋めているのが、高い運動能力、ハードなトレーニングを続ける体力、何事も前向きに捉える思考、アドバイスを受け入れ実行に移す力だと感じます。食事面でもスポーツ栄養士やコーチの助言を自炊に活かしているという上田選手。まさに素直さと実行力が強さの秘訣といえるでしょう。
 上田選手が出場するトライアスロンのレース(オリンピックディスタンス)では、スイム1.5km、バイク(自転車)40km、ラン10kmの合計距離で早さを競うため、持久力がとても重要な競技となります。ただ、混戦の中から抜け出すためには瞬発力も必要ですし、スイムで追い込んだカラダを使ってバイク、ランに挑むためには回復力も不可欠です。トレーニングは8時間を超えることもあるそうなので、貧血予防を意識し、カラダの隅々まで酸素を運び込めるようにしておくとよいでしょう。そのためには、ヘモグロビンの材料である鉄(レバー、ひじき、青菜類、牛赤身肉、切干大根、カツオなど)とたんぱく質(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品)、体内への鉄の吸収を促進するビタミンC(柑橘類、いちご、キウイフルーツ、イモ類、青菜など)をしっかりとっておくことが大切です。そして最も重要なのが、運動中のエネルギー源である糖質の確保。パスタやご飯、パンなどの主食を毎食たっぷりとることがポイントです。また、トレーニング後には傷ついた筋肉を修復するたんぱく質の補給も行うようにしましょう。

あさりのタンメン風パスタ

貧血予防を意識し、レバニラやひじき煮をよく作ったり、内臓疲労を考慮して食事に2時間以上かけるというるという上田選手。とてもハードな競技であるトライアスロンで活躍するためには、上田選手のように自身のカラダのことをきちんと考え、行動に移し続けることが大切なのだと実感します。今回ご紹介するレシピはどれも鉄と糖質が豊富なので、ぜひこちらの料理にもチャレンジして上田選手にはリオ五輪を、他のトライアスロン選手にも目的達成を目指して欲しいと思います。

<あさりのタンメン風パスタ>

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坂本雄次プロフィール

坂本雄次さん

1947年神奈川県生まれ。
自身のダイエットのため始めたランニングをきっかけに、当時在籍していた東京電力で陸上部の監督を15年務め、素人の中からフルマラソンを2時間30分で走るランナーを数多く育成する。
1993年にマラソンの各種大会を企画運営する会社「株式会社ランナーズ・ウエルネス」を設立。
日本テレビ 24時間テレビ の「24時間マラソン」、「湘南国際マラソン」などの立ち上げに尽力。間寛平さんのアースマラソンのアドバイザーとしても完走をサポート。

AIMS公認距離測定員
国際スパルタスロン協会日本支部代表
一般社団法人日本ウルトラランナーズ協会(JUA)理事

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